「違う。ベトナム人がベトナム人を騙します」
「仕事をはじめてから、最初の1ヶ月目はお金を払う。次の月は払わない」
彼女が働いた農場の場所は、尋ねても最後までよくわからなかった。
当初は故意にはぐらかしているのかとも思ったが、他のことはなんでも詳しく教えてくれる人物である。おそらく同胞のブローカー経由で何度か騙され、職場をいくつか転々としたのではないか。
新人エミちゃん19歳
茨城時代の月収は15万円前後だった。ボドイになると税金や保険が天引きされなくなり、それでこの値段である。介護施設で働いていた時期と2万円しか違わず、不法就労によって自分の身分が不安定化したことを考えると、あまり割に合わない。ただ、それでも出国前の借金は返済できた。
やがて2022年5月、別のブローカーの誘いに応じて日暮里で身体を売ることにした。「良い仕事ではない」ので長く続けたくないというが、収入は以前よりもいい。実家への仕送りが増えるのだ。
「ふうぞくのしごと。げっしゅう、30万~35万円くらいです」
店長は中国人だった。寮としてあてがわれたアパートの部屋で、昼ごろから深夜2時までLINEの連絡を待つ。ひとつ屋根の下で中国人とベトナム人ら3人の同僚たちと暮らしているが、薄い付き合いしかないことはすでに書いたとおりだ。
ユキから、大手の性風俗店紹介サイトに掲載された店舗の「女の子紹介」のホームページも見せてもらった。なんと表記がベトナム語で、「新人エミちゃん19歳」、「出勤TEL確認」などと書いてある。
OSの言語設定がベトナム語になっているスマホからアクセスするとこうなるようだ。女の子の募集ページもやはりベトナム語のものが見つかった。日本の夜の業界の紹介ページが、レイアウトはそのままにクォックグー(ベトナムの表音文字)で溢れている光景はインパクトがあった。
チャイエスの「名物」である3Pは60分コースで1万7000円
「この人、ほんとうは、りゅうがくせい。ベトナム人」
「この人、お店のとし(齢)は21さい。ほんとうは39さい。ぜんしんせいけい(全身整形)。すごくこわい。ちゅうごく人」
他の従業員について教えてくれる。「あなたの写真はどれ?」と尋ねたところ、「ユキ」のプロフィールページを見せてくれた。彼女の面影をわずかに残した女性が、分厚いメイクにかなり強いライトを当てられたらしく真っ白な顔をして、口を閉じて微笑んでいる。
──ホームページをより詳しく見せてもらう。
ユキの店のサービス料は40分コースが7500円で、60分コースが8500円。さらに90分~180分(1万3000円~2万5000円)のコースもあるが、店舗の性格上、こうした高いコースを選ぶ客は多くない。チャイエスの「名物」である、女性2人が相手をする「ハーレム3P」60分コースは1万7000円、 3Pの90分コースは2万6000円である。
女性の指名料は別途1000円だ。
ちなみに、女性が得られる金額は客が払う値段の半額程度である。