「イヤなお客さんはいますか?」 「いない。だいじょうぶ」
スケジュール表を確認すると、彼女の名前は毎日掲載されていた。週末も休みはなさそうだが、生理休暇が1週間あるとして、1ヶ月の実働日数は23日。客の多くが60分コースを選ぶと仮定して計算すれば、接客人数は1日あたり約3~4人だ。
さらにユキの名前の下には、対応可能な「サービス内容」がこう書かれている。
バイブ責め 可能
オナニー鑑賞 可能
顔射 可能
聖水 可能
アナルなめ 可能
「……イヤなお客さんはいますか?」
「いない。だいじょうぶ」
ユキはそう話したが、性風俗産業に限らず、接客業の客質は価格設定とほぼ相関する。
貧しい日本人たちのご機嫌を取り続ける毎日
言うまでもなく、前途のある爽やかな若者や社会的地位の高い紳士が、日暮里の路地裏のカビ臭い格安レンタルルームで、口元から黄色い乱杭歯をのぞかせたバツイチ子持ちの不法就労者と40分7500円で性交したがる例は多くないだろう。
店にやってくる男性は、やはり所得が比較的低く私生活も孤独だろうと思われる、40~70代の貧相な感じの人物ばかりだ。
かつて広島の介護施設で、ストレスを募らせた日本人職員にいじめられ、老人の汚物の処理を押し付けられていた対価は月収13万円。対して日暮里で1日に3~4人、不景気を絵に描いたような中高年男性の欲望の放出に付き合って月収35万円である。
いずれにせよ、それがユキが日本で見てきた風景だ。
排泄物と体液の臭気にまみれながら、常に不機嫌な表情を浮かべた貧しい日本人たちのご機嫌を取り続けることが、彼女の仕事なのだった。