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もうすぐ廃線「留萌本線」“最後の日々”〈1日平均乗客数が2人以下の途中駅、潮風で朽ちた外壁…〉

2023/02/25

genre : ライフ, 歴史, , 社会

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深名線から移設した北一已駅舎。難読名の由来は…

 深川発の留萌行き1番列車は、まだ早朝ということで、途中駅の半分以上を通過する事実上の快速列車でもある。それがまた、途中駅の様子もじっくり見たい旅行者から避けられて空席が多い理由かもしれない。ただ、留萌まで乗ってすぐ上り列車で引き返せば、帰りの列車は各駅停車なので、停車駅の観察はそのときに、と割り切ることにした。

 5時48分、最初の駅・北一已を通過。「きたいちやん」と読む難読駅名だが、私が初めて留萌本線に乗った平成6(1994)年当時は「きたいちゃん」だった。北海道庁ホームページの『アイヌ語地名リスト』によれば、「いちゃん」とは「鮭の産卵場」を意味するアイヌ語に由来するそうなので、以前の読みのほうが正しかったのではないだろうか。

北一已駅に接近

 ホームの前に建つ駅舎は、かつて国鉄深名線(平成7年廃止)にあった宇津内という駅が昭和30年代に廃止された後、その駅舎を解体してここに移設したものだという。周囲を耕作地に囲まれ、今はほとんど利用客がいないようだが、別の日に地元で聞いた話によれば、かつては駅から少し離れたところに鉄道官舎があり、鉄道員の家族が数世帯、まとまって暮らしていたという。

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北一已駅舎。国鉄深名線・宇津内駅舎を移設したとされている
冬の北一已駅ホーム

所有者不明の待合室があった「朝礼台ホーム」駅

 次の秩父別は市街地の中心に近く、線内では比較的乗降客数が多い駅だが、1番列車はここも通過。そこから2分ほど走ると、古びた木造の待合室と板張りの短いプラットホームが、進行方向左側の車窓を一瞬だけかすめた。北秩父別駅である。

北秩父別駅。北海道によくある「朝礼台のようなホーム」の典型例
冬季に同じ場所から撮影

 北秩父別駅は昭和31(1956)年に仮乗降場として開業した。仮乗降場とは、国鉄本社の許可を得なくとも地方の鉄道管理局の判断で設置できた停車場の形態で、国鉄時代の北海道に多く存在した。簡便な手続きと低予算で設置できる特性上、1両編成のディーゼルカーが何とか停車できる程度の長さで、板張りの簡素なホームが原野の中にポツンと設置されていたりした。板張りの短いホームが、まるで学校のグラウンドにある朝礼台のようにも見えることから、「朝礼台ホーム」などと呼ばれたりもする。