年間100兆円以上も国費を社会保障費に充当させていいのか
また、成田さんが何を言ってどう炎上したかにかかわらず、近い将来、間違いなく医療制度(医療提供体制)や失業保険などの我が国の社会保障制度は、考えられていた予算を超えて高齢者の生活のために費消されることが予測され、必然的に制度改革をどうするのかという議論をせざるを得なくなります。なにぶん、高齢者の医療負担や介護に関しては求められる限り青天井で認められるものであって、その予算を担う勤労世帯が細り、高齢者が増えたら立ち行かないのも当然と言えます。
もともと、優秀な理系の子どもたちが続々と国公立大学の医学部を目指す日本社会において、社会的にもはや富を生まない高齢者のために減っていく貴重な理系人材を医師としてコストをかけ養成し、日本社会や経済の成長に資することのない高齢者を生きながらえさせるために年間100兆円以上も国費を社会保障費に充当させていいのか、という議論はどこかで賛否両論立ててやるべきです。
志高く人の命を救いたいという献身的な医療従事者の努力によって日本の標準医療は支えられ、またコロナ禍でも諸外国と比べて対策がもっとも上手くいった国のひとつに挙げられるのですが、少なくとも2040年までは高齢者がどんどん増えていく中で医療への需要は高まるけど、それに見合った経済的余力が日本にあるのかと言われると実に微妙です。ブラック職場の代名詞である大学病院や基幹病院の医局が、2024年の働き方改革施行で「働いた分はちゃんとカネを払え」となると、採算的に立ち行かなくなり、地方の産科などの診療科は続々と廃止になるのではないでしょうか。
そして、その解がベーシックインカムだよ、税と社会保障の一本化だよ、高齢者集住で介護コストを引き下げる法制だよといった、各種暴論も含めて一度テーブルの上に乗せて、本来はあれこれ議論しなければなりません。
しかし、高齢者も憲法で認められた一人一票の原則で意見が出せるとしつつ、完全な利害関係者であり、日本は高齢化率がとても高いことを考えれば、いまの政治が高齢者の意向を完全に無視して「高齢者向けの福祉予算を削って、これから生まれる子どもたちや、子どもを生もうと考える出産適齢期の若い女性への経済支援に充当します」というと、高齢者はこぞって反対することになります。
これからの日本で頑張っていかなければならない人たちのために
さらには、これから100万人単位の引きこもりや、結婚しなかった、結婚できなかった、離婚して再婚のあてがない、伴侶に先立たれてしまって一人暮らしという独身者の割合がどんどん増えていきます。未婚で、子どもなしの割合が増えていくならば、当然のように結婚して子どもを育てている家庭への優遇政策には反対を唱えることでしょう。
成田悠輔さんの議論が指し示すものは、こういう議論において利害関係者である高齢者や独身者には政治的発言を控えるなどして勇退してもらい、これからの日本で頑張っていかなければならない人たちの意見を汲み取れる社会制度を作りましょう、そうしないと日本社会が駄目になりますよ、という話です。