しかし、ホストもホストで大変である。キャバクラと違ってホストクラブのアフター代は基本的にホスト側が支払うことになっているからだ。「バカはアフターで赤字作って金が回らなくなる」と田口が言うように、ホストにとってのアフターは好きな人とのデートでもなんでもなく、シビアなものである。
「売れているホストはまずアフターをすっぽかすことはないですし、一つ一つ計算してますよ。今日指名してくれた客の売り上げから自分の手取りを計算して、アフターはいくらまでに抑えればこれだけの利益が出るというように」
そうなると一撃の高級シャンパンなどを入れない限りは、女の子も「姫」のような扱いを受けることは難しくなってくる。いつまでも「つるとんたん」からの「バリアン」といったしみったれたアフターで満足しているようではホス狂いの名に恥じるのだ。
「7万円で仕入れた酒は100万円で売ります」
たとえば、田口の店でもっとも高い酒は、高級ブランデーとして知られる「ヘネシー・リシャール」。
ただそれにも売り方がある。
「うちの店では大体、原価7%。7万円で仕入れた酒100万円で売ります。リシャールは40万円のときもあるので、1本500万以上ですね。リシャールを頼んだとしても開けさせないし持ち帰らせない。持ち帰りたいなら自分で酒屋行って買えって話ですから」
当然、未開封の「ヘネシー・リシャール」は、別の日に再び500万円で売られることになる。仕入れ値が浮いたぶん、ホストに渡すバックも増やすことができる。
「ホストクラブは人件費が高いですから。客100万円使ったらホストには45万円渡しています。そこから酒の原価、広告費や経費などもろもろ差し引かれますから」
田口がプレイヤーだった15年ほど前までは、ホストのバック率はもっと低かったというが、大手グループ(groupdandy、AIR GROUP、冬月グループなど)の台頭により、プレイヤーファーストの給与体系になり、業界全体がその基準に従わなければならなくなった。大手グループよりも条件が悪ければ、規模の小さい店からはプレイヤーが離れていく一方だからだ。
「昔は“辞めたければ辞めろ”ってぶん殴るのが普通でしたが、今は“頑張って続けてみようよ”ってプレイヤーに言う立場ですからね。僕の店では、『入店から3か月は叱るな』『暴力は禁止』というルールを定めていますよ」