いきなりの申し出を「いえいえ、僕もうオッサンなので……」と丁重に断れば「大丈夫だいじょーぶ、向こうもババアだから」「ひゃーひゃひゃっ」とやけに盛り上がってしまう。イサーンの飲み屋にいるかのような錯覚を覚えるが、しかし僕はここで足止めされているわけにもいかない。目的は亀仙人街の調査である。本場イサーン仕込みの激辛ソムタムにお礼を言って、次なる店へ。
家賃が安いからカメセンニンに入ったが、ずっと赤字
2階のハラルショップを見てみるか、と階段を上がって店の扉を開けてみれば、タンスやら冷蔵庫やら戸棚やらが隙間なく並び、足の踏み場どころか、まともに歩くスペースがないほど中古らしき家具や家電が詰め込まれているのであった。なんだここは……キッチンカウンターと洗濯機の合間をむりやり通って奥のほうに潜入していくと、「いらっしゃいませえ」と間延びした声。バングラデシュ人だというおじさんがのんびりした様子で出てきた。
「ハラルのお店やってたんだけど、ぜんぜん売れないの。だからリサイクルショップにしてみたけど、やっぱりダメ」
愉快そうに笑うが、確かにこの物置かゴミ捨て場のような様子を見れば、誰もがきっと閉店していると思うだろう。だがおじさんは店の佇まいを気にしている感じはない。壁のほうには以前の名残りか、いちおうスパイスも積まれてはいたが、どれもホコリをかぶっている。
「カメセンニンには1年くらい前に入ったの。家賃が安いから。でもずっと赤字。日本に住んでる知り合いのバングラデシュ人、みんな家族におカネ送ってるけど、私だけ逆ね。家族からおカネ送ってもらってる」
隣のフィリピン料理店に行ってみると…
大丈夫かよと言いたくなるが、まあ陽気ならばなんとかなるんだろうか。この多国籍雑居テナントにも馴染んでいるようで、
「隣のフィリピンのレストラン、よく行くよ。たまにカメセンニンの人を集めて“ノミカイ”やってるしね」
てなわけでそのフィリピン料理店に行ってみると、ファストフード風の店内だが中央にビリヤード台が置かれていて、テーブル席には3人のフィリピン人のおばちゃんたち。
「水海道(常総市南部、行政の中心)に住んでるんだけど、ここにはたまに来るの。シニガンがおいしいよ」
と、フィリピンの国民食ともいえる酸味のあるスープをおすすめしてくれた。やはり3人とも、日本人と結婚しているそうだ。