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猿は食べ物を分け合わない――700万年の進化史における人間の食とは?

堤未果×山極寿一対談#2

source : ライフスタイル出版

genre : ライフ, 歴史, ライフスタイル

note

 なぜなら、猿は絶対に食物を分け合いません。チンパンジー、ゴリラ、オランウータンは、時々食べ物を分けますが、食べ物があるところでしか分配しないし、しかもケチ。まずい方か小さいほうを仲間にあげます(笑)。

なぜ猿は分配をしないのか?

 お裾分けの精神はないんですね。その辺は、猿が一番はっきりしているんですか?

 

山極 猿は自分中心で、おのおのが食べ物は自分で確保し、分配しません。強い方が餌場を独占するんですよ。ただし、先行保有者優先の原則があって、一度食物を手に取ってしまえば、それは奪われません。

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 餌場を優先的に取るのは強い猿で、小さい弱い猿は他に行って探さないといけないわけです。ただし、これはさほど不公平な話でもなく、木の上はむしろ小さい猿の方が有利で、枝先の美味しい実や葉っぱを採れる。地上には猿が食べられる餌はあまりないので、同じ食物資源で鉢合わせをしないよう、弱いほうが分散して食べましょうというルールです。

 ちゃんと住み分けてるんですね。弱いチンパンジーやゴリラはどうしてるんですか?

山極 大きなチンパンジーやゴリラが、デカいフルーツを食べていたり、今しがたハンティングしてきた動物の肉を食べたりしていると、メスや子供たちがやってきて、おねだりするんです。弱いほうが「頂戴」していく。

©AFLO

 オスだって、本当は自分が独占して食べたいんですよ。でも、メスは要求がすごくしつこくて付きまとったりするから、根負けして渋々分けてやるんです。

 心の広い良く出来たオス、という美談かと思いきや……。

山極 寛容だからじゃない(笑)。それに比べたら、人間はめちゃくちゃ気前がいいんですよ。自分の取り分を少なくしても、「食べて、食べて」って大盤振る舞いしたりするじゃないですか。

 しかも、仲間のために食物を運ぶ。例えば、キノコ狩りとか山菜取りとか、その場で食べられるイチゴとか柿とか、採ったらその場で食べるか、自分のために持ち帰ればいいのに、わざわざ必要量以上のものを持ち帰って、みんなに分けて一緒に食べるでしょう。

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 その行動の起源は、700万年前にチンパンジーの共通祖先から離れた直後に、人が二足歩行をはじめたことにあるんです。立って歩いて両手が自由になると、口にくわえるのではなく、手で食物を運んだ。