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猿は食べ物を分け合わない――700万年の進化史における人間の食とは?

堤未果×山極寿一対談#2

source : ライフスタイル出版

genre : ライフ, 歴史, ライフスタイル

note


 食べながら歌うんですか?(笑)

山極 ウゥウン、ウーウーゥーンーウーって、とてもメロディアスな声を出すんです。食べてるときに伝染していって、みんなでそういう声を出し合う。一緒にいてとても感動的で、本当にみんな楽しいんだろうなって思いますよ。

 うわぁ、想像するだけで楽しそう。そこに一緒にいたなんて、感動的な体験ですね。

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山極 話を戻すと、やっぱり農業の原点には、作物をつくって収穫する喜び、みんなでその恵みに感謝し、分け合う楽しさがあります。他者とともに喜び合うことが、第一次産業の一番核にある。

 わが家は、ささやかながら日本の近海漁業を守りたくて、瀬戸内海のある漁師さんに毎月投資しているんです。どんな魚が欲しいかは一切言いません。獲れた魚に応じて、季節によってイカだったりサヨリだったり全く違う魚種を送ってくれるんです。そのたびに「どうやって食おうかな」と考えるんですが、時々「こうやって食べると美味しいよ」という調理法まで書いて送ってくれるんですね。

 それは素晴らしいですね!

 

山極 規格化されたものを買って消費するのではなく、漁業している人、農業している人に投資して、そこで出来たものを「使用価値」として送ってもらう。それをありがたくいただいて調理することを自ら実践しています。

価値を転換させる成功の秘密は「小さくやること」

 まさに、市場ファーストの大量生産大量消費の構造と対極にある投資法ですね。今のお話を聞いて、前に取材した、地方のある保育園の給食を思い出しました。ある時、食材を地元の有機農家さんから入れようと決めたんですが、有機野菜は規格がバラバラでいつ何がどの位採れるかわからないでしょう? だから先払いしてその時出来たものを送ってもらい、材料を見てからメニューを考えるやり方に変えたんですね。これだと無駄がでないし、旬のものを一番いい形で使えるから味もいいし栄養価も高い。生産者さんも支えられ、子供たちも健康になったそうです。

 さっきの山極先生の取り組みもそうだし、価値を転換させる成功の秘訣は、まず「小さくやること」ですよね。

山極 そう、小規模こそが日本の強みなんですよ。日本列島の特性にも由来するものなんでしょうが、日本には小さな単位の農家さんや漁師さんたちが独自の知恵をもって生き残っていて、それこそが未来に対する強みだと僕は思う。