「自己を省みるとはこういうことなのか、と深く考えさせられる上にそこに紡がれている物語もとても面白くて一気に読みました」。文筆家・ひらりささんの新刊エッセイ『それでも女をやっていく』に、こう感想を寄せて帯を綴ったのはドラマプロデューサーの佐野亜裕美さん。10歳ほど離れた親しい友人関係であり、ともに「ほとんど男子校な世界」の東京大学出身という2人は、「女」を取り巻くラベルを見つめ直す作業を実生活でどう実践し、作品と向き合ってきたのだろうか。
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セクハラ、パワハラ発言への悩み
――佐野さんがプロデューサーを務めたドラマ『エルピス』のあるセリフについて、ひらりささんから意見を伝える機会があったと伺いました。おふたりは、いつ頃からお知り合いなんでしょうか。
ひらりさ 数年前ですね。佐野さんのご自宅でボーイズラブについての勉強会というか、何人かで集まって話すという会があったんです。大好きだったドラマ『カルテット』のプロデューサーの方のご自宅に、“BLに詳しい人”という枠で呼んでいただくことになるとは思いませんでした(笑)。『おっさんずラブ』が盛り上がりつつある時期だったんです。
佐野 2018年の夏とかそれくらいかな。うちにはよく友人が遊びに来てくれるんですが、BLの現在地を知りたいと思っていた時期に、広めに声をかけて。私は直接知り合いではなかったんですけど、友人がりささんを呼んでくれて初めてお会いしました。
ひらりさ 新刊にも書きましたが、私は昨年1年間、ロンドンの大学院にあるGender, Media & Cultureというコースで、フェミニズムの観点からメディア論を学んでいました。でも実はその下見として、2019年冬に1カ月の語学留学をしていたんですね。そのことをFacebookで投稿したところ、亜裕美さんが「ちょっと話を聞かせてほしい」と。その後、たしかロサンゼルスに行かれましたよね。
佐野 そうそう。2020年2月からもともと3カ月行く予定が、コロナで1カ月半で帰ってくるっていう。
ひらりさ 仕事を辞めて、次の職場へうつる合間に短期留学するというお話で。そのときに私がお酒の勢いで、留学のことのみならず、やはり新刊に書いたような個人的な人間関係や仕事の悩みもダーッとしゃべるみたいな感じになって……。
佐野 そこからお互いに友人関係の相談をしたり、だんだんと深い話をするようになった感じですね。ドラマ『エルピス』(2022年10月~12月放送)をやったときに、セクハラ、パワハラ発言のセリフについて、ちょっと悩んでいたんです。岡部たかしさんが演じた村井喬一という『フライデーボンボン』チーフ・プロデューサーのキャラクター造形について、脚本家の渡辺あやさんとのあいだでずいぶんやり取りがありました。
もともと『エルピス』の台本は、2018年にオンエアしようと考えて2017年にできたものです。ただそれからもう5年が経っていて、いま放送するにあたり、とにかく口が悪く、同じ番組で働く人たちの仕事ぶりに暴言を連発する村井の造形はそのままでいいのか、という不安があった。こういうことの専門家って誰なんだろうと。たとえば警察ドラマをやるときは警察監修に入ってもらうように、留学先でフェミニズムやメディア論を学んでいるりささんに台本を読んでもらおうと思い立って、フィードバックをもらったという経緯ですね。