春風亭一之輔が「笑点」新メンバーに加わると発表されたのが、二月五日だった。あれから六週間。十年前から大喜利の座布団に座っているかのような貫禄というか、ふてぶてしさで番組に馴染んでいる。
いや、やっぱり少しは心配してたんですよ。一之輔と「笑点」。その距離はあまりにも遠い。
あれ、落語番組じゃないですから。落語家が奇妙な原色の着物で、大喜利やっているお笑い番組なんだから。そこに、いま落語界のトップといっていい、実力派の一之輔が加入しても、水と油じゃないかってね。
杞憂でした。名人は、寄席、ホール、「笑点」と場所を選ばず。いまや、すっかりテレビの人気者だ。
「笑点」って、やはり特別な番組ですよ。一之輔も書いていた。「笑点」新メンバーの発表がされたとき、彼はその後の「バンキシャ!」生出演のため局の楽屋でテレビを観ていた。
「自分の姿が画面に映ったその瞬間、お祝いのLINEやメールが怒濤の勢いで届く届く。スマホが発作を起こしたように震えが止まらない。着信記録の数字がドンドン増えていく。怖え、怖えよ」
週刊朝日に連載しているエッセイの一節だ。人気者になっちゃうね。すごい。儲かるね。金貸してくれ。そんな反響を紹介してから、一之輔はひと言。
「みんな日曜の夕方、家に居るなぁ。で『笑点』観てるなぁ。好きだなぁ『笑点』」
やがてメッセージの内容がやや変化していく。「無理しないでね」「なんで引き受けたの?」「落語は捨てたの?」「寄席にはもう出ないの?」。みんな心配なんだよね。でも本人は、レギュラー番組がひとつ増えたくらいに穏やかーに受け止めてね、と。
先々週は、日テレとNHKのコラボで、チコちゃんが「笑点」に登場した。片や“永遠の五歳”。片や「笑点」は妖怪・林家木久扇が八五歳。これを大喜利のお題にした。「パパとお風呂に入るのが五歳。ヘルパーさんと一緒に入るのが八五歳」とかね。一之輔は「親離れするのが五歳。体から魂が離れるのが八五歳」。
すると木久扇が大喜び。目立つのがうれしくて仕方ない。桂宮治や一之輔の加入って番組の若返りをはかるためだったんだよね。でも一之輔の加入で、木久扇の妖怪ぶりは際だち、七六歳コンビの小遊三、好楽もボケ具合いを売りにして存在感を増している。すると攻めのトークが売りの宮治や、センスも好感度も高い林家たい平なんかが、割りをくってる感じもする。
死と隣合わせのメンバーが、それをネタにして笑いを取り、岩盤支持層が喜ぶという他に類をみない番組が「笑点」なんだな。この番組のシュールな特質がさらに浮きぼりになった、一之輔の加入だ。
INFORMATION
『笑点』
日本テレビ系 日 17:30~
https://www.ntv.co.jp/sho-ten/