試合に負けても、悔しいなら悔しいままでいい
現在(編集部注:刊行当時)はニューヨーク・ヤンキースでプレーする田中将大投手は、メジャーリーグへ移籍する前年のシーズンに、東北楽天ゴールデンイーグルスのエースとしてレギュラーシーズン24勝無敗というとてつもない記録を残しました。ファイターズは8度対戦して、一度も勝てなかった。
彼に完璧なピッチングをやられたら、どうしたって勝てない――対戦した相手チームの監督も、選手も、13年シーズンの田中投手には脱帽したでしょう。私もそのひとりでしたが、「プロとして負けることに納得していいのか」という気持ちもありました。
「田中投手がいかに大エースだとしても、ウチの大事な選手たちが抑えられて、しょうがないと思っていいのか。ウチの選手はもっとできるんじゃないのか」と自分に問い質しました。
試合内容は決して悪くなかったけれど、結果はついてこなかったという試合後、選手たちには「いいからすべて忘れよう」とか「明日からの試合に、今日の負けを生かせ」と声をかけます。「切り替えも大事だ、もうスッキリ忘れろ」と話したりもしますが、監督は切り替えなくていい。悔しいなら悔しいままでいい、というのが私のスタンスです。
「この内容で負けるならしょうがない」ではなく、「この内容なのにどうして勝てないのだ?」という方向で、試合を振り返ったほうがいい気がします。それこそ「霜を踏みて堅氷至る」の考えかたで、「まあ、いいか」とするのではなく改善の兆しを察知したい。
ケガ人が出てしまうのは監督の責任
「これぐらいなら、まあいいか」という思考は、私たちの生活にプラスをもたらしません。「まあ、いいか」を繰り返していくと「良くないこと」に疑いを持たなくなり、やがては「まあ、いいか」が習慣化されてしまいます。
コーチ陣にはウォーミングアップやそのときの選手たちの表情を注意深く観察してくれ、とお願いをしています。ある選手がストレッチをしながら足を気にしていたと把握することで、大きなケガを未然に防げるかもしれない。選手の微妙な変化を見落としたことで、大切な戦力を1か月も2か月も試合で使えない、というようなことは避けなければなりません。
筋肉系のケガなどは突発性の事故もありますが、我々コーチングスタッフが注意していれば防げるものはあります。練習の組みかたや緊張感の持たせかたが違えば起こらなかったケガはあり、そこには多くのケースで「予兆」がある。そう考えるとケガ人が出てしまうのは監督の責任です。
選手本人の準備不足だ、と言うのは簡単です。けれど、ケガをしたいと思っている選手など、いるはずがありません。1軍で活躍するために、彼らは日々努力をしているのです。
うまくいかないことがあったら、自分に矢印を向けてその原因を探る。他人に押し付けるよりも、そのほうが気持ちはスッキリします。原因が明らかになれば、「明日からもっと頑張ろう」というエネルギーが湧いてきます。
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