年度変わりとなる4月は進学や就職など、多くの方々が新たなスタートを迎える時期だろう。将棋界はというと、3月で順位戦が一区切りを迎えるので、そこを節目と考える人は多いかもしれない。
昨年度の順位戦でも多くのドラマがあった。その中で、全クラスを通じてもっとも早く昇級を決めた斎藤明日斗五段に話を聞いた。C級1組へ昇級を決めた順位戦だけではなく、2022年度の斎藤五段は39勝9敗(勝ち数3位タイ)の勝率0.812(2位)と、各棋戦で満遍なく勝っている。その充実ぶりに迫っていきたい。
「この強い2人についていかないと」
――改めて、順位戦昇級おめでとうございます。2022年度の好成績について、ご自身ではどのようにお考えですか。
斎藤 正直、不思議な感覚ですね。まずABEMAトーナメントがあって、その期間中に将棋に対する取り組みの意識が変わりました。ドラフトで選ばれたのが1月、予選の収録は2月、本戦は6月からでしたが、4月から9月くらいまでは充実感があり、公式戦でもいい内容の将棋を指せている自覚がありましたね。
ABEMAトーナメントが終わってからは燃え尽きた感覚があり、調子がいいとは思っていませんでした。ABEMAトーナメントでの貯金をやりくりできたのか、力そのものがついたのか、正直なところよくわかっていません。
――ABEMAトーナメントでは永瀬拓矢王座に指名され、増田康宏七段ともども、チームを組みました。
斎藤 指名されたのは正直、驚きでした。実は他の棋士から組みたいと匂わされていたんです。ドラフトが行われた当時は7連敗中で、将棋に対してモチベーションがなかった時期です。指名された結果、永瀬さんからは研究会に呼ばれる機会が増えて、ありがたかったですね。ABEMAトーナメントについては強い意識、特にチームメイト2人の存在を強く意識していました。「この強い2人についていかないと」というプレッシャーと焦りが常にありましたね。ガムシャラに将棋に打ち込んでいました。
勝った瞬間は「生きててよかった」
――予選を勝ち上がって迎えた、本戦トーナメントの初戦は対チーム広瀬(広瀬章人八段、三枚堂達也七段、青嶋未来六段)戦でした。この戦いは両チームが相譲らず、4勝4敗のフルセットとなって最終第9局へもつれ込みます。その大一番を任されたのが斎藤さんでした。
斎藤 あの時は、8回戦を終えて増田さんが全勝で、対して自分は2連敗中でした。負けたら戦犯というのは初めての経験ですね。普通はどうやってもああいうシチュエーションにはならないと思います。もう完全に空気が違って、負けたら帰るところがないというのは想像を絶するつらさでした。
短時間では気持ちを切り替えられないので、ここまで勝っていない自分に勝機を見いだせないんですよ。控室でもずっと沈んでいて、その空気がチームメイトにも伝わってしまいました。生放送でも言ったことですけど、勝った瞬間は「生きててよかった」というのが実感です。