2017年、19歳でプロ入りを果たした斎藤明日斗五段。プロ入り後は停滞する時期もあったが、昨年度は順位戦C級2組で全クラスを通じてもっとも早く昇級を決め、竜王戦でも5組に昇級した。勝率も0.812と全棋士で2位となる成績だった。年度が替わってからも、佐藤天彦九段を破って王座戦決勝トーナメント進出を決めている。

 そんな絶好調の斎藤五段に同世代や同門の若手棋士への思いを聞いた。

四段になったことで気が抜けて…

――奨励会時代は、近い世代をどのように見ていましたか。

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斎藤 本田さん(奎五段)は同世代の感覚が強かったですね。本田さんと同い年に増田さん(康宏七段)がいますが、先を行かれ過ぎていたので同世代という感覚はありません。三段になったころは、本田さんしか同世代がおらず「周り、おじさんだよね」と。僕の三段2期目で藤井(聡太)竜王がリーグに入ってきて「私たちもおじさんになりましたね」と言い合っていました(笑)。

斎藤明日斗五段 ©橋本篤/文藝春秋

――三段リーグはどのような戦場でしたか。

斎藤 1期目のリーグで、初戦の相手が大橋さん(貴洸七段)でした。緑のスーツ姿で黄色のバッグを手にしていた記憶があります。当時の大橋さんは新人王戦の決勝に勝ち進んでいたこともあり「凄いところに来ちゃったな」と思いました。その1局を勝てたのは自信になりましたね。1期目は8勝10敗でしたが、3期目に勝ち越した時は自分が強いと考えていた三段とも互角に戦えたので、次はいけるかなと。実際、4期目に昇段できました。

――斎藤さんが四段昇段を果たしたのは2017年10月ですが、デビュー直後の18年度は公式戦で16勝23敗の負け越しでした。この時に挫折感などはありましたか。

斎藤 めちゃくちゃありましたね。将棋をやめたくなった時期です。四段になったことで気が抜けていて、生活もおかしかったです。将棋に熱が入っておらず、遊びなどに夢中になっていました。プロになってお金ができたのもその理由でしょう。勝てなくなってから遊ばずに将棋をやろうとは思いましたが、メンタルもおかしくなっており、何にも自信が持てなくなっていました。

©橋本篤/文藝春秋

順位戦は魂のぶつかりあい

――改めて、順位戦の昇級についてうかがいます。

斎藤 師匠からは、順位戦と竜王戦は特に頑張れ、そのランクで評価されるからとよく言われます。実は、2021年度のほうが昇級への意識がより強かったんですね。その時は4連勝スタートから3連敗して、かなり絶望しました。気合が空回りした感じです。昨期はABEMAトーナメントのためにも、「常に強くならないと」という意識がありました。特段順位戦に意識が向いていたわけではなかったのが、良かったかもしれません。

――師匠の宮田利男八段の世代は、順位戦が特別だという意識を持たれる時代だったと思いますが、斎藤さんご自身はいかがでしょうか。

斎藤 師匠の影響はあるかもしれませんが、順位戦は特別なものという気がしますね。三段の頃に順位戦A級で記録を取りましたが、凄まじい人たちだなと感じました。技術も含めて覇気、雰囲気が他の人とは全然違います。この戦場で戦いたいと思いました。順位戦は魂と魂がぶつかっているように見えて、強く惹かれましたね。