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ベッタちゃんは掘り出した人参を茹でてマッシュし、母ちゃんが粉から練ったピザ生地で包んでいく。これは美味そうだ。
そのころ、父ちゃんは砂の上に円を描いて、そこで薪を燃やしていた。ひと通り燃やし終えると、円の内側を掘る。熾火がチリチリと燃えていて、結構な熱さになっているのがわかる。ここに食材を埋めたら、良い感じに蒸し焼きができそうだ。そう、父ちゃんは砂のオーブンを作って予熱していたのだ。
ここで日本の家庭ならば、アルミホイルで包んだ食材が登場するところだろう。しかしここはサハラ砂漠のど真ん中。砂漠のキッチンにそんな選択肢はなかった。熱々の砂の上に、モッチモチのピザが直接置かれ、その粘りの強そうな生地に砂が乗せられていく。
加熱時間は10分ほど。文字通り砂の中からピザが…
加熱時間は10分程度だろうか。パリッと焼かれたベルベルピザが砂の中から取り出された。表面は良い感じで焦げていて、あたりに香ばしい匂いが漂う。私に気をつかってか、母ちゃんが表面の砂粒をフーフーと吹き払ってくれた。
包丁でバリバリッと切り分けて供されたピザは、焼けた小麦の香ばしさと人参の甘くしっとりとした食感が絶妙で、非常に美味かった。まあ想像通り、大量の砂混じりだったけどね。
ただ、何日も砂だらけの砂漠で暮らしてると、思ってたより気にならず、たまにでかい粒が歯に当たったらぺっと吐き出すだけ。人間、慣れればどこでも暮らしていけるもんだと悟った、非常に思い出深い一品だ。