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2、ラオス山中の壺に入った「固形の酒」
「ラオスの山奥には壺に入った固形の酒があり、夜な夜な村人たちは壺に水を注ぎ入れながら吸うらしい」
そんなミステリアスな噂話を聞きつけた私は、ラオス北部の都市ルアンパバーンから地元のガイドとともにジャングルの中へと分け入った。日本人の目には人跡未踏の大密林に見えるが、実際は山中にいくつもある村から大都市ルアンパバーンへ抜ける重要な街道なのだろう。人の往来は思いの外多い。
大きな川を渡り、峠を越え、小さな村に宿泊し、2日間かけて目当ての村「フェイポン」にたどり着いた。
村では珍しい外国人の訪問に多くの人が集まってくる。私の来村目的をガイドが通訳した。
「村の伝統酒を飲みたい」
そんな酔狂な目的のためにここまで私がきたことを、村人はたいそう喜んでくれた。さっそく副村長が自宅へ招いてくれ、酒宴が始まった。
「まずはラオラオだ」
そう言って副村長がコップに透明な酒を注いでくれる。日本の米焼酎に似た風味で、旨味と香りが鮮烈な酒だった。多くの村人がつまみを持参して酒宴に加わり盛り上がる。注がれるままに何杯も気分よく飲んでいると、ふと酒瓶のラベルが気になった。
これは…「病院の点滴ボトルか!」
「んん……ラベルが逆さま?」
そう、なぜかガラス瓶に貼られた文字ラベルが上下逆なのだ。どうやら英語で書かれているらしい、掠れた文字をよく読むと「生理食塩水」とある。
「ああ、これは病院の点滴ボトルか!」
点滴に使い不要になったガラス瓶を再利用しているのだろう。我が家でもプリンの空きカップを使っている。まあ同じことだ。点滴なら体に悪くはないだろう。お互い怪しい英語でそんな話をして笑い合う。気がつけば夜もふけてきた。