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「お父さんがキレて、お母さんを投げたり…」ヤングケアラーの女子大生が3度自殺未遂を経験した悲しい理由

カウンセリングとこころの深淵#7 ——ヤングケアラーの心の傷(1)

2023/04/27
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「お母さんが物投げて、叫んで……」

「言い合いは長く続いていましたか?」

心菜「それほど」

「どうやって終わるのですか?」

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心菜「最後は、お母さんが物投げて、叫んで……」

「物?」

心菜「電話とかリモコンとか、食器とかも」

「すると?」

心菜「お父さんがキレて、お母さんを投げるって感じです」

「投げる?」

心菜「殴って、蹴って、最後に持ち上げて」

 口喧嘩という心理的な面前DV(18歳未満の子どもの目の前で家族に対して暴力をふるうこと)から身体的DVに発展していくパターンが日常的に繰り広げられていたようです。両親に喧嘩が起こると、多くの幼い女の子は「止めたい」と思うものです。しかし止めようとしても止められない。こうして自分のことを「無能」だと自責する傾向が強められていく人たちを数多く見てきました。

※写真はイメージ ©AFLO

「親の喧嘩が始まって、止めたいと思ったことはありますか?」

心菜「いいえ、またやってるなって」

「止めたことはないのですか?」

心菜「ないことはないですけど」

「止めたときはどうなりました?」

心菜「うーん。『お前は邪魔だ』って言われたかなぁ」

「誰から?」

心菜「お母さんから」

「お母さんから。それでどう思いましたか?」

心菜「ああー、邪魔しちゃいけないんだー、って」

「それはいつ頃のことでしょうか?」

心菜「小学生だったと思います」

「喧嘩する親のことは、気になっていましたか?」

心菜「いいえ、べつに。気にしないでテレビ観たりしてました」

 心菜さんは、面前DVにさらされ、本当の自分の気持ちに蓋をすることを覚えてしまったことがわかってきました。自分の気持ちを誰にも言わなくなるのは、それを「言うに値しない」と切り捨ててしまっているからなのです。残されたのは究極の自己否定、死ぬことになっていったのでした。これでは生きる世界は地獄になってしまいます。

 心菜さんが大学生でありながら、貯金があるからという理由で、親に内緒でカウンセリングに毎週通える点も含めて、まだまだ多くの謎がありそうです。

付記 本稿で取り上げる事例は、可能な限りご本人の了承を得て、かつ必要に応じて個人が特定されないよう小修正を加えて執筆するものです。

◆◆◆

【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)

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