「このまま死のうかと……」心理センターにそう電話を掛けてきたのは、発達障害を抱える33歳の男性だった。公認心理師である長谷川博一氏が、彼とのカウンセリングの一部始終を明かします。(全2回の2回目/前編を読む

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 出勤途中に「このまま死のうかと……」と切羽詰まって電話をかけてきたトラック運転手の正樹さん(33)。翌週、私が代わりに予約したメンタルクリニックを訪れ、

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〈適応障害 1ヶ月の静養を要する〉

 との診断書が交付されました。それを職場に郵送してから、私のところで検査を受ける運びとなります。

正樹「今は本当に仕事のことは何も考えなくていいんですよね?」

「はい。頭を休めることに専念しましょう」

正樹「いつも積み荷のことばかり考えてました」

「今はどうですか? 死ぬことは浮かびますか?」

正樹「それは考えなくなりました」

「この期間を利用して、仕事がうまくいかなくなった原因を明らかにして、対処法を一緒に考えていきましょうね」

 その後、私のクリニックでWAIS-Ⅳ(ウェクスラー成人知能検査第四版・子ども用はWISC-Ⅴ)という知能検査や他の発達検査を実施することになりました。

写真はイメージ ©️AFLO

 医療機関や教育関連施設の多くで実施される知能検査として、この大人用のWAIS-Ⅳがあります。これで発達障害がわかるとの誤解が一部で広がっているようですが、ある程度の参考になる程度に過ぎません。

 発達障害は、脳神経系の諸機能に得意な領域と不得意な領域があり、それらのギャップが大きいために生じると考えられています。発達凹凸とも称される所以です。この検査で顕著な凹凸が見出された場合に発達障害の可能性が示唆されているものとして、便宜上使われているのです。

 したがってこのような知能検査では、知能指数そのものを測るというより、いくつかの下位指標や15種の検査得点を比較し、それらのバランスを見ることが重要になってくることになります。

 本稿では各検査の解説は割愛し、代表的な4つの指標について触れます。

知能検査4つの指標のバランス

 

 

・言語理解

 

 知識や語彙の豊かさや、言葉を用いて推理したり、推理したことを言葉で表現したりする能力

 

・知覚推理

 

 視覚的な情報を取り込み、相互に関連づけ、全体として意味あるものにまとめるなどの空間把握についての能力

 

・ワーキングメモリー

 

 注意を持続させ、聴覚的な情報を正確に取り込み、短期的に記憶し応用する能力

 

・処理速度

 

 時間内に視覚的な情報を数多く、正確に分類などの処理をして、書き出したりする能力

 正樹さんに施行した結果は、全検査IQが「平均的」、4つの指標のうち「言語理解」は「高い」、「ワーキングメモリー」と「処理速度」の2つは平均的、「知覚推理」だけが「低い」という値でした。これは脳の機能状態に顕著な凸凹があることを示すものでした。