「実は、大学に入ってから風俗でバイトしていて」
心菜さんは、実家から少し離れた地域にある、福祉系の私立大学に通っています。学費、生活費、カウンセリングの費用など、すべて「貯金があるから」と、自分でまかなっているのです。その「貯金」のことが気がかりでした。
「両親は、大学の学費のことは何と言っていますか?」
心菜「何も言ってません」
「心菜さんが自分で出していることは、知っているのでしょうね」
心菜「たぶん」
「よくそれだけの貯金を貯めましたね」
心菜「あの……」
「はい」
心菜「実は、大学に入ってから風俗でバイトしていて」
「はい、それで足りているのでしょうか?」
心菜「はい」
「授業に行きながら?」
心菜「なるべく休まないようにしてますけど、たまに休んじゃうときはあります」
「それは大変ですね」
心菜「時々休みたいって思うことがありますが」
「大学? バイト?」
心菜「バイトのほうです」
「仕事が大変なのですか?」
心菜「ちゃんと仕事できているか、自信なくて」
「ちゃんと仕事?」
心菜「お客さんの役に立っているのかなって」
「心菜さんはいつも、自分のためでなく相手のこと優先ですね」
心菜「そうですか……」
「自分のことも大切に考えられるようになる。これはカウンセリングの目標でしたね?」
心菜「はい。頑張ります」
「バイトも、両親は知らないんですね?」
心菜「はい。何も言ってません」
「私のバイト、一種の自傷行為じゃないかって」
これで、心菜さんが「貯金があるから大丈夫」と言っていた意味がわかりました。自分のことを大切にすることを覚えていった先に心菜さんがどのような選択をするか、それを見届けたいと思いました。
この告白の後で心菜さんはまた涙ぐみ、思わぬことを言ったのです。
心菜「私、リストカットとか、したことないんですよ」
「そうなんですね」
心菜「自分を傷つけたい衝動が込み上がってくることはあるのですが」
「はい」
心菜「私のバイト、一種の自傷行為じゃないかって思っているんです」
「はい、自分を傷つけているという意味ですね」
心菜「そうです。だからいつかはやめたいです」
「わかりました」