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「小さい頃からずっと、母親の愚痴を聞いていた」親の不幸話を受け止め続けた女子大生(21)が背負う“心理的ヤングケアラー”の後遺症

カウンセリングとこころの深淵#7 ——ヤングケアラーの心の傷(2)

2023/04/27
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母親の不幸話を受け止め続けた心理的ヤングケアラー

 愚痴の内容は主に、母親の生い立ちの不遇さでした。母親の両親は、物心ついた頃には離婚していて、家に誰もいない時間が多く、ネグレクトのような状態で育ったそうです。家にいるのも寂しいだけだったので、学校から帰るとあてもなく出歩き、コンビニの駐車場にたむろするようになりました。

 中学生のとき、そこに集まった仲間たちと親しくなったのですが、その中の1人の男友だちから強姦されるという事件が起きました。そしてその後、その相手と2人で家出し、逃亡生活のような時期を過ごします。

 心菜さんの母親には、心理的には親がいないということになります。

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 この男性との生活では経済的に困り、頼まれて売春を重ねたこともありました。しかし18歳の頃、男性は突然行方をくらまし、母親はひとりぼっちになってしまいます。仕方なく実家に戻ると、母の再婚相手の男性がいて、昼間から酒を飲んで寝ていたということです。

 母親は近所のスーパーへ行き、そこで長時間働きました。なるべく家にいたくなかったと言っていたそうです。働いたお金は、家の生活費に入れさせられました。役所から成人式の案内が届きましたが、母親は参加しませんでした。

 勤務先に同世代の男性がいて、母親にとってその人はとても物静かで、温かい人に見えたそうです。母親のほうから積極的に話すようにして、2人は懇意になります。そして数年後、入籍することになりました。この人たちが心菜さんの両親です。

 母親のこれほど具体的な不幸話を、心菜さんは幼い頃から繰り返し聞かされていたのです。聞いてくれる娘がいることで、母親はどれほど過去の心の傷を昇華できたことでしょう。代わりにその傷は、娘にバトンタッチされることになりました。

 心菜さんは、心理的ヤングケアラーと理解されるべきです。お母さんの悲しい人生に触れ、自分の欲求よりお母さんを慰めることを優先にすることによって、自分の存在する意味をどんどん消していったのです。18歳と成人式の自殺未遂は、母親の人生の後を追うかのようでした。

※写真はイメージ ©AFLO

大学の学費も下宿代も…「私が払っています」

 4回目のカウンセリングです。私は「母親も救われるべきだ」との観点から、来てもらうことを提案しました。これに対して心菜さんは頑なに「(カウンセリングのことは)言えない」と拒むのでした。

「カウンセリングに通っていることも、費用がかかっていることも、ご両親は知らないんですよね?」

心菜「はい」

「どうしても知られたくない?」

心菜「はい」

「お母さんを助けることになるとしても?」

心菜「無理です」

「両親は経済的に苦しいのですか?」

心菜「裕福ではないと思いますが」

「大学の学費は払ってもらっている?」

心菜「いえ、私が払っています」

「下宿代は?」

心菜「私です」