「ひどいショー」をやるクイーン
――日本では90年代からシス女性のドラァグクイーンさんも多数活躍されていましたね。当時のクイーンさんで特に印象に残っているクイーンさんやショーなどはありますか?
マーガレット ルチアーノのショーはいいですね。ルチアーノは。
――今でも活躍されているんですか?
マーガレット いやもうお母さんです。
――カッコイイですよね。唇にインパクトのある印象的なメイクだったと記憶しています。
マーガレット パワフルなのは唇だけじゃないわよ。ほんと「ひどい」ショーやってた。二丁目のクラブのゲイパーティーで、彼女はショーに出てきて服を脱いでいって……それを見たゲイ〔の客〕は「女だわあ!?」みたいになって……もう、阿鼻叫喚よ。「きゃあー!!」みたいな。そういうショーをやる人だったの。ルチアーノはおしゃれよ、それ。
――その他に、「ひどい」、おしゃれな、素敵なショーで思い出深いものはありますか?
マーガレット これまでいろんな人のを見てきてるんだけど、すごいなって思ったのはそんなにない。でも、クリスティーヌ・ダイコのショーはいつもクオリティが高くてほんとに素晴らしい。PRIVATE PARTY【注3】ってメン〔男性〕オンリーのパーティーだからクイーンは基本的にフロアにいないわけなんだけど、3時〔間〕に1回GOGO BOYによるショーがあって、その内の1回にダイコのショーもあるの。
映画『タイタニック』が流行っていた時期で、セリーヌ・ディオン〔のMy heart will go onの曲だった〕。ショータイムが近くなると、カーテンの幕が下がって閉まってみんなでそわそわしだすんだけど、タイタニックの曲が流れ、フロアの幕が開くと、LIQUID ROOM(編注:新宿のライブハウス)の端から端まで船の舳先が作られていた。その先端のところにダイコが出てきて、1曲口パクして、さーってカーテンが閉まる。一晩の内の1曲だけのためにそのセットを組むの。ほんと素晴らしい。
――素晴らしいですね! ダイコさんのショーはよく見られていたのですか?
マーガレット ある時は、BLEND(編注:イベント名)かPRIVATE PARTYだったか分かんないけど、当時『エビータ』〔同名のミュージカルをもとに作成された映画作品〕が流行ってたの。ダイコが伊勢エビの衣装着て出てきて、『エビータ』の〔主演の〕マドンナのバルコニーシーンを1曲だけやって終わるっていう(笑) その3分のために衣装を作る、そういう素晴らしいクイーン。あと…オナンは「ひどい」ね。オナン〔・スペルマーメイド〕は相変わらず〔現在も〕やってるから今しゃべらなくてもいいでしょ。
プロのクイーンとは
――マーガレットさんは以前「僕はショーをするのが嫌なんだ」と話してくださいましたね。
マーガレット 欧米のクイーンたちってクイーンがステージに上がったり、お立ち〔台〕に上がって踊るだけでもショーって呼ぶんです。日本の場合は「落ち」が付くようなものしかショーと言わない。そこがちょっと違う。どっちかっていうと日本のドラァグクイーンは女装芸人なんだよ。
ばってん荒川とか、女装して笑いを取るっていう女装は、芸人だからまあそれはそれであってもいいし、面白いものだからいいんじゃない? でも僕はあまり興味がないし、やりたくない。ユキちゃん(編注:BLENDやPRIVATE PARTYを運営する、イベント会社「幸・インターナショナル」代表・加藤ユキヒロのこと)はそういういわゆる女装芸人みたいなのは好きじゃない。それよりも、踊っている中でお客さんがいい気持ちになって、楽しんでる時に“奇妙”でキレイな人がステージに上がり、GOGO〔ダンサー〕が踊ってより気分が高揚するっていうのを演出効果として狙っていたわけ。
そこへ、そこら辺の吊るしで買ってきたようなワンピース着て、きったない化粧のおかまが上がってきたら気分が下がっちゃうわけじゃん。
『ドラァグ・レース』以前以後
――今の若いクイーンたちを見ていて思うことはありますか?