「昔の私は、ジャズなんて歌っちゃいけないと思っていたんです。敷居が高いというか、安易に近づけないって感じていた。でも今は、気負わずに、気取らずに、本当に自然体で歌えるんですね。時が巡って、そういうタイミングがやって来たのかな」
山下久美子さんは最新アルバム『JAZZ”N”KUMIKO』で初めてジャズに挑戦した。収められているのは「ダニー・ボーイ」などのスタンダードナンバー7曲と、新たなアレンジを施したセルフカバー4曲。設立間もない新レーベル「JUDGMENT! RECORDS」の第一弾として、4月26日にリリースされる。
本作が生まれたきっかけは、1980年代にディレクターとして彼女を担当した盟友、渡辺康蔵氏からの誘いだった。
「ジャズアルバムを作らないかって声をかけてもらったんですけど、気心の知れた人からのオファーだったので、新しい試みにもスムーズに取り組めました。改めていろんな曲を聴き込んでみて、実際に歌ってみて、スタンダードナンバー恐るべしって思いましたね。感情が込み上げてきて、本当に泣きたくなっちゃう。これはきっといいアルバムになるだろうなって」
レコーディング期間は、わずか2日。ハードなスケジュールだったが、腕利きのプレイヤーたちとの仕事はとても楽しいものだったという。
「ジャズミュージシャンの皆さんって、本当に物腰が柔らかくて、優しいんです。尖ってるロックの人たちと全然違う(笑)。だから私もリラックスして歌うことができました。しかも、物腰は柔らかいのに演奏は力強くて、ベースの音を聴いて『ロックじゃん』って思ったり。とても面白かった。2日間で11曲も歌入れをしたのはデビュー以来初めてですね。全部やり遂げたときは、シャンパンでも開けたい気分でした(笑)。以前の私だったら『そんなの無理』ってワガママを言ってたかもしれないけれど、それだけ大人になったのかな」
ジャズにアレンジされたセルフカバー曲も、このアルバムの聴きどころだ。選ばれたのは80年代に発表された4曲。たとえば83年のヒット曲「こっちをお向きよソフィア」は、軽快なナンバーから一転、情感豊かなボサノヴァへと生まれ変わっている。
「本当にアレンジできるの? って実はちょっと心配してたんです(笑)。でも、ミュージシャンたちがさすがなのね。音を出した瞬間、新しい曲に生まれ変わってた。私のコアなファンの人たちにも、きっと楽しんでもらえると思います。今回のアルバムは、人生のBGMというか、日常生活に溶け込むように聴いてもらえたら嬉しいですね」
4月22日には本作のレコーディングメンバーが集結して、東京・築地のライブハウス「BLUE MOOD」で発売記念ライブを行う。
「また彼らと一緒に歌えるのが、すごく楽しみですね。今からワクワクしています」
ジャズという新たな表現スタイルを得て、彼女の世界はさらに広がっていきそうだ。
やましたくみこ/1980年にシングル「バスルームから愛をこめて」でデビュー。82年「赤道小町ドキッ」が大ヒット。ベストアルバムとして『山下久美子 オール・タイム・ベスト Din-Don-Dan』、『愛☆溢れて! ~Full Of Lovable People~』をリリース。
INFORMATION
アルバム『JAZZ”N”KUMIKO』
CD購入および問い合わせ先
https://judgment-records.com/2023/04/12/2391/