食文化研究家の魚柄仁之助は、著書『国民食の履歴書│カレー、マヨネーズ、ソース、餃子、肉じゃが』(青弓社、2020年)で、「外来の食材、よその国や地域の調理法、調理習慣などを拒むことなくあっさりと取り入れるものの、自分たちが築いてきた味付けや調理法にうまく同化させて日本独自の料理にしてしまう力こそが『和食』」だと規定する。
中国の麺料理をルーツとするラーメンは、1910年に浅草の来々軒がスープに醤油タレを使った“東京ラーメン〞を出した時点で既に「日本風」であったし、1958年に日清食品(当時の社名はサンシー殖産)が発売したインスタント麺「チキンラーメン」や1971年に発売した世界初のカップ麺「カップヌードル」は、日本で開発された大ヒット商品である。とんこつラーメンや煮干しラーメン、家系ラーメンや二郎系ラーメンなども、発祥の地・中国とは無関係の日本独自進化の産物だ。
カレーも然り。メリケン粉でとろみを出した黄色いカレーは日本特有のもの。日本風のドライカレーやスープカレーは、本場インドに存在しない。トンカツを乗せたカツカレーなど最たるもの。カツ自体がフランス料理のコートレットを日本の天ぷらの技法でアレンジしたものである。
「のり塩」というフレーバーは、ポテトチップス発祥の地とされているアメリカどころか、当時世界中どの国にもなかった。すなわち、その後、ポテトチップスが日本独自の進化を遂げていくことは、この時点で既定路線だったとも言えよう。
ポテトチップスが「国民食化」していった理由
日本風のアレンジという意味では、たとえばカルビーの主力商品であり現在のポテトチップスのデファクトスタンダードである「カルビーポテトチップス うすしお味」には、塩だけでなくこんぶエキスパウダーが入っている。ラーメンやカレー同様、日本人の味覚に合うよう調整を施し、ガラパゴス的に独自進化を遂げていったことも、ポテトチップスがのちに「国民食化」していった理由のひとつではないか。
その上で、「ジャガイモと海苔のマリアージュ」は決して突飛な発想ではない。畑中によれば、ジャガイモは何とでも合う万能な食材だ。たしかにジャガイモは、トリュフやフォアグラやキャビアといった海外の高級食材にも、肉じゃがに代表される醤油など和風の味付けにも合う。
ジャガイモの万能さはそのまま、ジャガイモの加工食品であるポテトチップスにも引き継がれている。カルビー、湖池屋に次ぐポテトチップスメーカー、山芳製菓の総務部長(当時)・猪股忠は2013年の寄稿で、「ポテトチップスは凄い素材だと思います。どんな味も風味も拒むことなくしっかりのせることができる。どんな味も活かすことが可能」と述べた。さすが、ジャガイモにわさびと牛肉味を載せて定番ロングセラー商品に仕立てた「わさビーフ」の山芳製菓だ。「どんな味も風味も拒まない」の言葉に、これ以上ない説得力がある。