戸田 それ以外ですね。「AV女優・戸田真琴」が撮る映画を観たい人が期待する作品……その人たちを「楽しませる」エンタメ性のある作品を作るのは、私にとっては純粋な芸術としての映画とは違う、「映画の神様に背く行為」だから、葛藤があって。だけれど、性格上、期待してもらう気持ちを無視することもできない。
そうなると、「AV女優・戸田真琴」としての作品ではなく、やっぱり自分の信じる芸術としての作品をつくることになるんですけど、それはAV女優としてのファンには求められていない。主義も主張も、「AV女優」という職業やそこで行うべき振る舞いからどんどん乖離してしまう。
――だからこそ、引退してから改めてまた映画を撮りたいと思っているわけですね。
戸田 そんな感じですね。色々な活動をやってみると、私はAV女優としての活動ではなくて、コラムや本を書いたり映画を作ることを通して、自分が自分であることを開示したとき、そして「自分が世界をどう見ているか」を開示したときに世の中から返ってくる答えだけが、私にとって「味のするもの」だったんです。
もう「AVに出る必要がない」「やめていいんだな」と思えた
――それは「自分にとって、本当に意味があることだった」という解釈でまちがいないですか?
戸田 はい。だからそのことに気が付いてからは、自分のことをもっとナチュラルに認識できるようになっていったといいますか。「自分はもう人と触れ合ってはいけない『臭くて不潔な人間』ではないし、自分が特別いびつな体をしているわけではない」とわかるようになって、「自分は人から笑われる存在でもない」「自分が自分として生きていいんだ」という感覚に結びつきました。
そうしたらもう「AVに出る必要がない」となって「あ、やめていいんだな」と思えて。他者と性的な触れ合いができないプレッシャーとか、「自分は一人前の人間じゃないから生きていけるはずがない」という意識が、いつの間にかどうでもいいものに変わっていて。それが腑に落ちたので、辞めました。
もちろん、すべてのAV女優さんが何かのコンプレックスがあってやっているというわけではなくて、ポジティブに活動している方々もたくさんいますが。
――戸田さんとしては、AVに出るきっかけとなった「意識」が昇華された、ということですね。