2010年代に入り、将棋ソフトが棋士の力を超えて、人間が見えなかった世界を示すだけでなく、指した対局などを解析できるようになった。藤井が棋力向上を目指しているのも、将棋ソフトの影響は無縁ではない。
大谷翔平と共通する「勝者のマインド」
藤井は今年の第72期王将戦でレジェンド・羽生善治と初めてタイトル戦で相まみえた。藤井は四段当時の2017年に、ABEMAの企画「藤井聡太四段 炎の七番勝負」第7局で羽生と対戦している。この番組は、藤井がデビューから14連勝中の2017年4月に放送された。
学生服を着た中学3年生の少年が、非公式戦とはいえ王位・王座・棋聖の三冠王だった羽生から金星を挙げたことは大きな話題になった。ここから藤井の対局に張り付く報道陣の数がグッと増えて、最初の藤井フィーバーが過熱することになる。
その後、藤井は「将棋世界」2017年7月号で羽生について、「奨励会時代はただ遠い存在として憧れていただけですけど、公式戦では自分の頑張り次第で当たるところまで行けるので、羽生先生と当たるところまで登りつめないと、と思いますし、憧れからは抜け出さないといけない」と述べた。トップ棋士と戦うための心構えを新四段のころにはっきり示しているのだ。
そして2018年2月の第11回朝日杯将棋オープン戦本戦準決勝にて、羽生と公式戦初対戦。公開対局で注目される中で対局に勝ち、続く決勝戦の広瀬章人八段も破って中学生で棋戦初優勝を果たした。
「憧れ」という言葉、最近聞いた覚えはないだろうか。今年3月のWBC決勝戦でアメリカと戦う前に、大谷翔平選手が「憧れるのをやめましょう。野球をやっていたら誰でも聞いたことがある選手がいますけど、憧れてしまったら超えられないので。僕らは超えるためにトップになるために来たので、今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて勝つことだけを考えていきましょう」と話したのだ。士気を高めたチームは、3-2でアメリカに競り勝って優勝したのだった。