藤井聡太竜王(20)の戦いは続く。冬に王将戦と棋王戦の番勝負を争い、4月からは名人戦と叡王戦が始まった。そして、6月には棋聖戦でベトナム・ダナンにて対局する。
こうした中、藤井は驚異的なペースで勝ち続けている。20歳にして六冠王。あと1勝となった名人戦七番勝負では、谷川浩司十七世名人が持つ21歳2ヵ月の最年少名人の記録や羽生善治九段以来となる史上2人目の七冠がかかる。
勝率は6年連続で8割を超えた。一流棋士と対戦する割合は年々上がって、2022年度の藤井は64局中40局、つまり6割強が名人・A級棋士との対戦だったが、32勝8敗と8割の勝率を挙げているのだ。ここでは、藤井の近年の戦いを言葉で振り返ってみよう。
タイトル保持者はスーパーシード
現在、藤井はタイトル獲得通算14期。佐藤康光九段を抜いて、早くも歴代7位につけている。
何しろ、これまでに登場した14回のタイトル戦で1回も負けていない。藤井が異例なだけであって、本来タイトル防衛は難しい。藤井は歴代45人目のタイトルホルダーだが、それ以前の44人のうち初防衛戦に勝った棋士は14人しかいない。挑戦者は勢いをつけて番勝負に出てくるし、タイトルホルダーは防衛のため挑戦者よりプレッシャーがかかるからだ。また、タイトルを持つことで他の棋士の目標となって日ごろ研究の対象にもなる。
ところが、藤井は違う。2021年5月14日に行われた「令和3年版将棋年鑑」のインタビューで、挑戦と防衛の違いについて「防衛というと維持か減るかどちらかということになってしまうんですけど(笑)。タイトルを取るかどうかについてはスーパーシードで決勝戦から出られるということ」だと述べた。
防衛側であっても「タイトルを守る」という考えではなく、挑戦者のときと変わらないスタンスでタイトル戦に臨んでいるのだ。記録やタイトルを意識していないこともよく話している。