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「国は現場感のないまま制度設計し、市区町村にやらせるだけ。泣くのはいつも住民と現場の職員です」マイナンバーカード問題の傷口を広げた“登録システムの重大欠陥”

「国は現場感のないまま制度設計し、市区町村にやらせるだけ。泣くのはいつも住民と現場の職員です」マイナンバーカード問題の傷口を広げた“登録システムの重大欠陥”

マイナカードの混乱、福島に聞く#1

2023/06/15

genre : ニュース, 社会

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 Aさんは、混雑が落ち着いてから、中断していた公金受取口座の登録手続きを再開しようと、今度は準備を整えて、福島市の支援窓口を再訪した。

 支援員にマイナポータルのサイトを開いてもらうと、見知らぬBさんの口座が自分に登録されていて驚いた。

 それが2023年4月10日だった。

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 やや長くなったが、誤登録が生じてから発覚するまでの経緯だ。

 Aさんはその場で自身の口座に登録し直したのだが、事態を重く見た福島市は翌日の4月11日、誤登録が発生していたことをデジタル庁に報告した。と同時に「他にも誤登録の懸念があるので、全市民の口座情報を調べてほしい」と要請した。窓口で起こり得るミスだと考えたからだ。

 こう書くと、不思議に思う人がいるのではなかろうか。「市が入力したのに、市は調査できないのか」と。

 マイナポータルは政府が運営するサイトだ。公金受取口座はデジタル庁に登録されている。

福島市の職員に実情を尋ねた

「全て国の情報なので、市としては検証作業ができないのです」。福島市の目黒貴裕・デジタル推進課長が話す。

 市区町村の仕事なら、例えば税金関係では、別の担当者が入力審査や入力内容の読み合わせをして何重にもチェックする。

 ところが、マイナンバーカードに関しては、市区町村ではチェックできない国の情報登録を、市区町村に入力支援させている。支援窓口の開設にはもちろん国の補助金が出る。しかし、「後で確かめられないような作業を市区町村にさせるなんて信じられない」(別の市の職員)という声が出てくるのも分からないではない。

 問題は他にもあった。マイナンバーカードに登録された氏名は住民票に記載された漢字などで、公金受取口座の登録は通帳名義のカタカナだ。これでは照合のしようがなかった。そこで、デジタル庁は同一口座が複数の人に登録されていないか。その場合に姓や住所が違っていないかの確認作業を行った。

 福島市の要請から9日後の4月20日、デジタル庁は「誤登録の懸念がある人」として3人の情報を市に知らせた。

 これをもとに福島市は3人に連絡を取り、確認作業を行った。すると、全員が年明け頃までに支援窓口を訪れ、Aさんと同じような経過だったことが分かった。それぞれ支援員がログアウトを忘れ、次に支援を受けた人の口座が登録されてしまったらしい。

 市は3人に謝罪し、自宅にパソコンを持参して、正しい口座に登録し直した。

 自分の口座が、直前に支援を受けた人に二重登録されてしまった人についても、デジタル庁から情報提供があり、それぞれ市の担当者が訪れて謝罪した。

 それにしても、なぜ同じような誤登録が4件も発生してしまったのか。