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「国民はデジタルに精通していないし、デジタル社会としても成熟していない」

 国は、マイナポータルの操作を基本的に本人が行うと想定していたはずだ。それができない人のための支援窓口だった。だが、福島市で支援を受けた約6万1500人という数字はマイナンバーカードの取得者の3分の1に当たる。

 福島市の高齢化率(65歳以上の割合)は2023年1月1日時点で31.50%。支援を受けた人数はこの割合に近いが、窓口に来たのは高齢者ばかりではない。4人の誤登録者も、小学生、60代、70代、80代だった。小学生は支援窓口に親が来たのだという。つまり、小学生の親の世代も支援を必要としたのだ。

 私が福島市役所を訪れた時も、ちょうど小学生を連れた母親が支援窓口の誘導員に相談を持ち掛けていた。ある自治体の職員は「国民は政府が考えるほどデジタル技術に精通していないし、デジタル社会としても成熟していません」と言い切る。

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 その証拠のような事例がある。

「このままでは取り残される人が続出しかねない」

 これまで自治体の現場職員が極めて苦労してきたのは「マイナポイント第1弾」で付与された5000円分の説明だ。

支援窓口の開設を知らせるのぼり(福島市役所)

「ポンと5000円をあげるというわけではなく、キャッシュレス決済で最大2万円分をチャージしたら、5000円分のポイントを上乗せしますよという意味でした。ところが、『2万円分チャージしないともらえない』と説明しても理解できない高齢者が結構います。『なんで俺が2万円払わないといけないのか。それでは5000円もらうために、損をするじゃないか』と怒り出す人もいて、らちがあきません。キャッシュレス決済もPayPayとか、d払いとかと言ったら、もうチンプンカンプンです。デジタル施策を進めるのはいいけど、『誰一人取り残さない』という政府のキャッチフレーズとは裏腹に、このままでは取り残される人が続出しかねません」。そう危惧する自治体職員が少なくない。

 にもかかわらず、全国民に対して一気に何かを進めようという時に、デジタル的な手法を絡める施策は増えている。

 新型コロナウイルス感染症のワクチン接種の申し込みもそうだった。ネット予約の支援を受けようとする高齢者らが感染のリスクを冒して自治体の窓口に長蛇の列を作ったのは記憶に新しい。政府の手足として使われた自治体の混乱も含めて、今回のマイナンバーカードの問題と似た側面があると指摘する職員もいる。

 世代や人によって熟度の違うデジタル化。どこに軸を置き、何を進めるかを見誤ると、大きな混乱が起きかねない。デジタル化と「誰一人取り残さない」という宣言。これらの両立は現状では非常に難しい。誤登録が起きた背景には極めて深い問題がある。