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「国は現場感のないまま制度設計し、市区町村にやらせるだけ。泣くのはいつも住民と現場の職員です」マイナンバーカード問題の傷口を広げた“登録システムの重大欠陥”

「国は現場感のないまま制度設計し、市区町村にやらせるだけ。泣くのはいつも住民と現場の職員です」マイナンバーカード問題の傷口を広げた“登録システムの重大欠陥”

マイナカードの混乱、福島に聞く#1

2023/06/15

genre : ニュース, 社会

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その理由とは…

 目黒課長は支援窓口の混雑を理由に挙げる。

 デジタル推進課は課長を含めて総員6人。通常業務もあるので、マイナンバーカードの登録支援を行う余裕はない。そこで、支援窓口の業務は民間事業者に委託した。最初は市民課のカード交付窓口の横で2人の支援員が行っていたが、「マイナポイント第2弾」の効果でカードの申請者がどんどん増えた。このため、支援窓口を本庁舎入り口の広いスペースに移し、支援員を4人に増やしたほか、誘導員も置いた。さらに規模が大きな六つの支所にも1人ずつ支援員を置き、最終的に合計10窓口にまで増やした。「これが国の補助で開設できる最大限の規模でした」と目黒課長は語る。

 それでもさばき切れないほどの人が訪れた。

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あまりに来訪者が多く、「受付終了」を出さざるを得ない日もあった(福島市役所)

 支所は待つ場所がないので、どれくらい待ち時間があるか分かると、近くの自宅に一度帰ったり、用事を済ませたりしてから来る人もいた。しかし、本庁舎ではそのまま待つ人が多く、大勢の市民がずらり並べられた椅子に座り、ただただ時間を潰した。

 目黒課長は「もともと自分でもできる手続きなので、それほど難しくはありません。しかし、窓口では支援員が代わりに入力作業をしても、1人当たり15~20分掛かります。本庁舎では2時間待ちというような事態になりました」と話す。菅野寿和・デジタル推進係長は「窓口のスタッフには待っている市民の姿が見えます。『早く手続きをしなければ』という焦りにつながったのではないでしょうか」と推測する。4件のミスは全て本庁舎で起きていた。

 それほどの混雑ぶりだから、マイナンバーカードの交付率はどんどん上がった。総務省が発表している全国自治体の毎月の交付率によると、福島市は2022年1月1日の人口27万3348人に対し、2023年4月末までに19万1463人がカードを交付された。交付率は70.0%。人口要件が20万人以上の62中核市のうちでは26位だ。

 支援窓口には2022年度だけで約6万1500人が訪れた。そのうち誤登録は4人。多いと見るべきか、少ないと見るべきか。

 目黒課長は「1人でもミスがあってはなりません。市民は市役所なら間違いなく手続きをしてくれると信じて窓口に来ます。市役所と市民をつなぐ一番大事な関係は信頼です。だからこそ、私達は100%を目指さなければならない」と力を込める。

 人間のやることに間違いはつきものだ。にもかかわらず100%を目指さざるを得なかった。しかも、入力支援をしているのは国の情報なので、市区町村は登録内容を確認することができない。日々検証しながら進めることはできないのだ。

 それにしても、なぜこれほど多くの人が支援窓口に来たのだろう。ここから見えてくるのは、国が想定するデジタル社会の人間像と、実社会の乖離ではなかろうか。