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突飛に聞こえるであろうから、順を追って説明しよう。有徴化とは「徴(しるし)を付ける」ということである。今ではそれほどないが、医師や作家が女性の場合、女医、女流作家などと呼ばれることがある。これは医者や作家は男性であるという前提のもとで、「女」「女流」という語をつけて有徴化されているのである。
『ゴールデンカムイ』においては、囚人たちの身体に暗号の刺青を施すことで徴付け、他の登場人物とは異なる別の存在として際立たせている。刺青が施されることで男たちは囚人たちの男性身体に対して欲望するようになり、その皮膚に向けて刃を突き立てるのである。だとすると刺青に突き立てられる刃は女性器へ挿入される男性器の隠喩であると考えるのが自然だ。
この隠喩が機能することで、男性登場人物たちが男性の身体に性的欲望を向けながらそのような欲望が存在しないかのように振る舞うことが作品内で可能になる。
男性への性的欲望が、何度もうやむやに
たとえば、らっこ鍋を食べて生じた性的興奮を発散するために男同士裸で相撲を取り合う場面(12巻116話)がある。この場面で男たちが互いに性的な欲望を抱きあっていることは明らかであり読者にもそれとわかるように表現されている。
しかし、お互いに欲情した男たちは相撲を取ることで性欲を発散しそれをすっかり忘れたことにしてしまい、物語の本筋上では男性が男性に向ける性的欲望は無かったことになってしまう。
同じことは先述の男性登場人物同士が精液を飛ばしあって戦う場面にも言えるが、あまりにも露骨な性交の隠喩であるが故にそのようには解釈されず、ギャグとして解消されて男同士の性関係(の可能性)は隠されてしまう。