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 同様に鶴見の部下であった谷垣源次郎は第七師団を脱走し、マタギの二瓶鉄造の銃を受け継ぎ獲物を撃つこと(これを谷垣は勃起と呼ぶ)によって東北マタギとしての自己を取り戻す(15巻146話)。そして、最終的にはアイヌの女性と15人の子供を作り別の家族の秩序を作り出す(31巻314話)。

『ゴールデンカムイ』15巻146話より ©️野田サトル/集英社

 鯉登にしても谷垣にしても、鶴見の魅力から逃れても、別の異性愛的家族秩序を維持することで生き残っているのだ。

「変態的」な囚人たちは、なぜ無惨に殺されるのか

 他方、刺青を持ち有徴化された囚人たちはみななんらかの形で変態的な人物として描き出され、作品中で無惨に殺されてしまう。

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 獣姦者、同性愛者のヤクザの親分、自分が殺されることを想像して興奮する者、多重人格のニンフォマニアなど、異性愛規範から外れ有徴化された身体をもつ囚人たちは殺され、彼らの刺青人皮は剥がされ、家族/国家/軍隊といった異性愛秩序や家父長制を支えるものたちに利用される。

 別の言い方をすると、男性と婚姻関係を結び、子を産んで育てるという異性愛家族の秩序から外れた女性たちは現実社会で何かと罰を与えられがちだが、ここでは女性ではなく刺青を持った囚人たちに罰が与えられるのだ。