コロナ禍で「スキンハンガー」に陥る人が急増
たとえば、セックスの前戯としてマッサージをすることがあります。マッサージといっても、整体のようにぐいぐいと力を込めて揉みほぐすのではなく、フェザータッチで相手の肌に触れながら、血流を促すものです。
このような優しい肌と肌の触れ合いは、オキシトシンを分泌させ、相手の警戒心を解(ほど)いたり、安心や愛着、絆を醸成する効果が期待できます。つまり、前戯におけるマッサージにも、愛情を深める科学的な根拠があるのです。気のおけない相手にマッサージされて、いつもより気持ちよかったという感覚に思い当たる人もいるでしょう。そんな瞬間にも私たちの脳からは、肌と肌の触れ合いによってオキシトシンが分泌されているのです。
コロナ禍では、世界中でソーシャルディスタンスが推奨され、ロックダウンや自粛生活によって、他者との関わりが遮断されました。日本でも、相次ぐ緊急事態宣言下で他者との接触はリスクとされ、一時は対面して会話をすることすら憚られました。
こうして本当は人間にとって必要な肌と肌の触れ合いが強制的に禁止されたことで、「スキンハンガー」に陥る人が急増しました。特に、一人暮らしの中高年の場合、スキンハンガーに陥るとオキシトシンやセロトニンの分泌が滞り、精神的に不穏になって孤立を招き、最悪の場合は孤独死……といった事態も引き起こしかねません。
「社会性の喪失」と「性の二極化」
コロナ禍を経て、私たちの社会では人との触れ合い方が一変しました。
平日はリモートワークで朝から晩までデスクに向かい、休みの日には一日中、自分の見たい動画をYouTubeで観て、お腹がすけば出前サービスを頼む。口うるさい上司や、噂好きな知人との煩わしいコミュニケーションがなくなり「せいせいした」と感じた人もいるでしょうが、同時に懸念されるのが認知機能の低下です。
感染予防の名のもとに、家の中にずっと引きこもっていれば、外界から受ける刺激も減ります。また、運動をする機会も減るので、おのずと筋力は低下してしまいます。運動不足によって肥満リスクも高まり、一時は「コロナ太り」という言葉もよく耳にしました。
近年の研究では、筋肉量が減少し筋力が低下すると、自力で立ち上がったり歩行できなくなったりするだけでなく、認知症や関節疾患、糖尿病、脳卒中、骨折などになりやすくなり、死亡率が上がるといわれています。つまり、社会的な交流が失われたコロナ禍の影響は、身体機能、認知機能にまで及んでいる可能性が非常に高いと考えられます。
自粛生活によって煩わしいコミュニケーションから解放された半面、新しい刺激もなければ、人との出会いもない。自分が好きなコンテンツだけを消費し、食べたいものだけを食べる……そんな状況では、自分とは異なる意見や価値観の存在や世界の広がりを認識することが難しくなってきます。