学生の頃と比べて、社会に出ると男女ともに仕事や責任が生じるため、恋愛や友人関係以外の人付き合いが増えていきます。同僚、仕事相手、近所付き合いなどさまざまな関係性があり、そのなかで私たちは適切な距離感を学んでいくわけですが、その感覚を喪失し、異性に執拗につきまとうのがストーカー。
医学界でも、大学病院において中高年男性の患者が女性の研修医に「医師と患者」の距離感を喪失してつきまとう……という事案が少なくありません。私の知る限りでも、被害に遭った研修医が別の病院に異動せざるを得なくなったケースがあります。こういった構造は、どの業界にも見られるようです。
熟年の男女関係
ストーカーにまでならなくとも、中高年になると異性との距離感を見誤ったり、相手に嫌がられるような空回りした言動を取る人が出てくるのは、なぜでしょうか。
これは、年齢によって異性への向き合い方が変化してくることも一因だと考えられます。
10代や20代の頃は体力があり、出会いの場も少なくないため、積極的にせよ消極的にせよ、ある程度、異性と接する機会がありました。ですから、たとえ失恋したとしても、「まだ次がある」と前を向くことができます。また、そもそも経験が少ないので、失敗して当たり前。失恋の傷も、次に生かす糧(かて)と考えることができたでしょう。
一方、中高年になると、異性との関わりはどのように変化していくのでしょうか。
会社員なら管理職の役割を与えられる時期になります。守るべき家庭がある人も少なくありません。社会的な責任も増し、10代、20代の頃のように恋愛にばかりかまけているわけにはいきません。体力も落ち、出会いの場も限られるので、「あの人がダメでも次がある」と血気盛んに異性と関わることは難しくなります。下手に仕事上で知り合った異性を二人きりで食事に誘えば、セクハラ、パワハラと訴えられて社会的に抹殺される……そんなこともあり得る時代です。
こうした状況では、中高年は異性との出会いに慎重になるものです。よほどのイケメンや美女、大富豪でもない限り、そう簡単には次から次へと目の前に異性が現れることはありません。そのため、時間的、体力的に制限がある中高年は、限られた出会いのなかで、限られた異性とじっくり向き合うことになります。多くの場合、それは夫や妻、パートナーと呼ばれる存在になります。
異性との距離感がわからないまま暴走する人も
しかし、それまで異性と向き合う経験がないまま、漠然と過ごしてきた人はどうでしょう。いざ「じっくり向き合え」と言われても、異性との向き合い方がわかりません。そして、「女心(男心)が理解できない」「異性との距離感がわからない」まま、暴走してしまいます。
さらにもうひとつ、年齢を重ねると人間性が容姿や雰囲気にまでにじみ出る、つまり、人格が固まります。ですから、失敗してしまった場合、若い頃は糧にできていたものが、柔軟性がなくなり、受け入れづらくなります。ときには、人格を否定されたかのごとく大きなショックを受けることも。