だが、「外から観光客を呼び込みまち・むらが活性化する上で必要」が74.2%、「道路の積雪などで車やバスが利用できない時の有事の移動手段として必要」が46.7%、「自分のまち・むらの人口流出を食い止める上で必要」41.9%と続いた。
#1で、南阿蘇鉄道の中川竜一・鉄道部長(52)が「鉄道を残すための復旧ではなく、地域を残すために必要だから鉄道が復旧したのです。南阿蘇地域の住民には、鉄道を活用して地域をつくっていくんだという強い思いがありました」と述べたのには、裏付けがあったのだ。
中尾さんはアンケートの結果が嬉しかった。「自分も頑張ろう」と思った。沿線自治体の南阿蘇村や高森町の動きも強まったように見えた。
古本にこだわる理由
南阿蘇鉄道の五つの駅舎で店を開いている「世話人」も、被災後に南阿蘇村役場の担当者と毎月集まりを持つようになった。どうやったら駅や鉄道が活性化し、面白くなるかを話し合い、連携したイベントも行った。
「仲間意識が生まれて、皆で頑張ろうという雰囲気ができました」と話す中尾さんは毎年、「本屋ミッドナイト」というイベントを行っている。夕陽が沈んだ後のシルエットが美しい外輪山を背景に、ホーム上で「朗読式」をしたり、駐輪場にスクリーンを立てて映画会をしたりするのだ。本好きが県外からも集まる。
全線運行の再開日は全駅で企画があり、中尾さんも終日駅舎で過ごした。始発列車が来るのを皆で待ちながら朝食をとり、本を読むという催しから始まり、昼と夕方にマルシェイベント、夜には映画会も開いた。
それにしても、中尾さんはなぜ古本にこだわるのか。
「出会いがあるからです。古本屋に置いてある本は、普通の新刊書店ではあり得ないぐらい歴史の幅があります。こんなのもあるんだという出会いが面白いのです。もう絶対に巡り会えないだろうなという本にも出会えます。眺めているだけで知的好奇心が高まるのです」
駅舎と古本屋の共通項
駅舎の店舗にもそんな本があるのだろうか。「ありますよ。例えばこれ」。中尾さんが差し出したのは、『科学と趣味から見た金魚の研究』という分厚い著作だった。1935(昭和10)年に東京の出版社が出したようで、当時の価格は3円50銭。著者の農学博士が様々な金魚を絵入りで解説しており、「科学と趣味」とはどんな切り口なのだろうと、抑えがたい興味が湧く。「ですよね~」。中尾さんがうなずく。
「本屋はどんどん減っていますが、一方では面白い個人書店が増えています。本屋巡りをする人が結構いて、旅の目的にしている本好きもいるんですよ。そうした人に南阿蘇のよさも知ってもらえたらなと思います。ここに来なければ出会えない本と人と自然。大事にしていきたいですね」
なるほど、駅舎と古本屋には「出会い」という共通項があったのだ。中尾さんにとって、7年ぶりの全線復旧は、古本屋としての新しい出会いのスタートになる。
「南阿蘇鉄道も、私のひなた文庫も、長く続いていったらいいなと思います」
駅舎を後にすると、長陽駅でRelaxtimeの3人が演奏していた『ロング・トレイン・ランニン』の曲が耳に蘇った。
※表記のルール(元号が昭和までは西暦と併記としました)