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毎年数十人が「殺人スズメバチ」の犠牲に…「刺される人の共通点」と「刺されない絶対ルール」を教えます

source : 提携メディア

genre : ライフ, ライフスタイル, ヘルス

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そもそも「害虫」か「益虫」かという言葉は、人の価値観に基づいた造語です。この地球上で時空間をともに生き、「地球共生系」の一員として生物多様性を形成する要素であるスズメバチをどちらかに仕分けるのは実はとても難しいと感じます。

スズメバチも俯瞰(ふかん)的な視座から、「益虫」としての機能をもっていることを忘れてはいけないと思います。

大きく成長したスズメバチの巣には多数の幼虫がいて、働き蜂は幼虫の餌として相当量の昆虫の肉を日々巣に搬入しています。自然界において捕食者として食物連鎖の上位に君臨するスズメバチは生態系のバランスを保持する上で重要な役割を演じているはずです。

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スズメバチが餌として狩る昆虫類の中には多くの森林および農業害虫が含まれており、それらの大発生を制御する緑のパトロール隊としての一面ももっているのです(写真14)。

彼らの習性を理解すれば共存ができるはずだ

その他にも、古くは貴重なタンパク質源としてスズメバチの幼虫や蛹が食用に供されたり(写真15)、最近では幼虫の分泌する唾液(写真16)に含まれる多様なアミノ酸混合液をヒントに「VAAM」として商品化されたのは記憶に新しいところです。

紙の原料を木材パルプからというのも、蜂が木の皮を齧(かじ)ってそれを薄く伸ばして巣の材料にする様子からヒントを得たという逸話もあるようです(写真17)。

縁起物としてスズメバチの巣を大切にする家も多く、飲食店や旅館、選挙事務所、家庭の居間等に飾られる場合があります。私たちの先祖が「繁栄」、「強い団結」、「子宝の恵み」の願いを託すと同時に、彼らに抱いていた畏敬の念、延いては民族的・文化的な思想も感じ取れます(写真18)。

彼らの習性を科学的に理解して、誤解に端を発する刺傷事故を回避し自然界における貢献を評価、共存の術を探ることができればと想うのは、私だけでしょうか。

小野 正人(おの・まさと)
玉川大学教授
1988年3月玉川大学大学院農学研究科博士課程修了(農学博士)、同年4月玉川大学助手、以後講師、助教授を経て、2005年玉川大学教授。2013~2019年玉川大学農学部長/大学院農学研究科長/農産研究センター長、2019年より玉川大学学術研究所長、2023年より研究推進事業部長(兼)。日本昆虫学会副会長、日本応用動物昆虫学会会長(代表理事)などを歴任。現在、日本昆虫科学連合代表、ICE2024 Kyotoプレジデントなどを務める。1990年 井上研究奨励賞、1996年 環境賞 優良賞、2004年 日本応用動物昆虫学会 学会賞、2022年 日本昆虫学会 論文賞の受賞歴がある。
毎年数十人が「殺人スズメバチ」の犠牲に…「刺される人の共通点」と「刺されない絶対ルール」を教えます

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