また、彼がずっと一人胸の内にしまっていた自分の部隊の仲間を助けることができなかった後悔の思いを、勇気を出して奥さんに打ち明けることにしたときのエピソードも忘れがたいです。
「誰もが『兵隊本人のせいじゃない』と言うが…」
以下、『ソーシャルジャスティス』より引用します。
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しかし妻に打ち明けた後もAさんの罪悪感とPTSDの症状は続きました。加えて、「あなたのせいではない」とさらっと言い切る妻に関しては、「戦争でのトラウマの体験は今の自分にも影響を及ぼし続けている。その苦しみを妻が理解することはできない」とAさんはがっかりする様子を見せました。
Aさんは繰り返し、「誰もが『兵隊本人のせいじゃない』と言うが、実際兵士がどんな思いかは理解していないんだ。頭では分かっていても、俺らは『俺らのせいじゃない』なんて微塵も感じないんだ」と訴えました。「論理的には自分のせいではないとわかっていながら、罪悪感から解放されることはない」というAさんの体験がいかに複雑で、自身でさえも自分の思いを整理することがいかに難しいかということを話し合いました。
Aさんはベトナム戦争に関して、それが彼を「ボロボロにした」「戦争に意味なんてなかった」と繰り返し述べました。ベトナムにいる時は使命だと感じていたが、米国に帰るとすぐに戦争は「無意味」だったと気付いたと語りました。もしベトナムで兵士として行った仕事が世界にとって有意義であったと感じられたなら、今の人生も感覚も異なっていたのではないかと述べました。
「意味のない戦争で若者をボロボロにするなんて、国としてやってはいけないことなんだ」と当時話題だったアメリカの中東への侵攻について、苛立つ気持ちがおさまらないとAさんはよく話していました。
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「東側諸国」の体験から見えるプロパガンダ
今私はハーバード大学医学部准教授として、アメリカのボストンで暮らしていますが、周りには色々な国籍の友人がいます。冷戦時代に「東側諸国」と呼ばれた旧共産主義国や旧社会主義国から来た友人の意見は、いつもとても興味深いです。
トランプ政権誕生の1年前に中国やキューバといった国から来た友人は、「働いても何も稼げないような社会主義がどういう結末を辿るか知っている。そこから脱出してきたのに、(大統領候補と呼び声も高かった)バーニー・サンダースのような『社会主義』を謳う人には投票できない」という声もありました。
また、ルーマニアやブルガリア、ロシアなどの旧共産主義国からアメリカに移住した友人は、トランプの選挙活動を見ながら、「昔私達が見ていたプロパガンダメディアにそっくりだ」と声を揃えて言いました。