ある時から互いを憎みあい絶縁状態にある姉と弟。舞台女優の姉アリスは弟の存在をひたすら無視し、詩人の弟ルイは姉のことを自著に書いては彼女に復讐する。そんな2人が、両親の交通事故をきっかけについに再会する。
大嫌いな相手が身近な家族だと、怒りを隠すのも許すこともより難しくなる。そんなやっかいな家族のドラマを描くのは、フランスの名匠アルノー・デプレシャン。過去作『クリスマス・ストーリー』でも、大家族のなかで1人弟を憎み続ける姉を登場させた。
「『クリスマス・ストーリー』では、最終的に姉と弟はいがみあったまま終わってしまいました。これでは1人の女性を憎しみという監獄に入れたままだ、彼らの話はまだ終わっていないという感覚が自分の中であった。だから『私の大嫌いな弟へ』は、憎悪に囚われた女性を解放し自由にするために作った映画なのです」
アリスとルイの苦しみは悲劇的だが、子供のように喧嘩をする様は滑稽でもある。
「物事がドラマチックになればなるほど滑稽さが浮かび上がってくるものです。本作で喜劇と悲劇が最も接近するのは、本屋でルイがアリスの息子と偶然再会する場面。ルイは最初甥と親しげに話していますが、唐突に怒り出します。彼はアリスとは仲が悪いけれど彼女の息子とは仲良くしていた。でも段々と、自分の息子は幼くして死んでしまったのに、姉の息子だけが生きていることに腹が立ち彼を虐めてしまう。おかしさと深刻さが混ざり合った最高の場面で、ルイ役のメルヴィル・プポーが素晴らしい俳優だからできたことです」
アリス役のマリオン・コティヤールの演技も素晴らしい。
「アリスの優雅さを保つことが非常に重要でした。アリスは、強迫的な考えに取り憑かれながらも常に無邪気な子供でありつづけている。そんな彼女の複雑さを、マリオンは見事にもたらしてくれました。
実際のマリオンは気さくな人ですが秘密主義なところもあります。実は撮影を始めてから4週間程経ったある日、彼女は突然『自分はアリスとして日記をずっと書いていた』と告白したのです。ルイはアリスについての本を一方的に書き出版しつづけている。そのお返しで日記にルイのことを書いていたのです。マリオンはそれを誰にも見せないと宣言したので、その内容は今も不明なままですが(笑)」
アリスが弟を嫌う理由は劇中でいくつも語られるが、真実はよくわからない。
「結局のところ、アリスは弟のことが怖いのです。不幸にも彼女は弟をあまりに愛しすぎてしまい、大人になるために一度彼を自分から遠ざけなければいけなかった。そして最後に再び弟を自分のもとに迎えるのです」
つまり愛と憎しみは表裏一体ということなのか。
「愛情が過剰になりすぎると愛し方がよくわからなくなるのです。1つはっきり言えるのは、憎悪は時間の無駄で、必ず止めるべきものだということ。怒りを追い払いそれを愛に変えるべきなのです」
Arnaud Desplechin/1960年、フランス生まれ。92年に発表した初長編『魂を救え!』がカンヌ国際映画祭に正式出品され、以後カンヌの常連に。主な作品に『そして僕は恋をする』(96)『キングス&クイーン』(2004)『クリスマス・ストーリー』(08)など。
INFORMATION
映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』
9月15日公開
https://moviola.jp/brother_sister/