先週も述べたように、数多くある配信プラットフォームの中でも旧作邦画のラインナップにおいては、U-NEXTが圧倒的だ。ソフト化どころか名画座でも長らくお目にかかれなかったようなレアな作品が並んでいるので、そのリストを眺めていると一本ごとに「ええっ、これもあるの!」と驚愕してしまう。
今回取り上げる『悪坊主侠客伝』が、まさにそう。
二〇一〇年にラピュタ阿佐ヶ谷で近衛十四郎の特集上映が開催されることになった際、本作の上映プリントが東映にはなかった。そのため、近衛ファン有志が資金を出し合ってニュープリントを焼いて上映にこぎつけた。かく言う筆者も寄付していたりする。
そんなレアな作品が簡単に観られてしまうのだ。恐ろしい時代である。
物語の舞台は大正時代の大阪と筑豊。近衛の演じる主人公は、鉄心という破戒坊主だ。この鉄心、盲目なのだが剣術の腕が立つ。座頭市を彷彿とさせる設定だが、人物像は、本心を隠して生きる座頭市とは異なる。
それは冒頭から顕著だ。警察署主催の武道大会で、鉄心は次々と勝ち抜く。その態度が凄い。汗一つかかないどころか、軽妙な関西弁を操りつつ相手を見下し、飄々と笑いながら、並み居る相手を打ちすえていくのだ。
そうした人をナメたような人物と思わせながら、駅で知り合った貧しい男に同情して大会で得た賞金を与えたり、師匠の和尚(三島雅夫)に説教されたら心から詫びたり――。直情的で未熟な、なんとも人間臭い人物として描かれているのだ。終盤のボタ山でのヤクザたちとの果し合いでも泣きながら戦っていたし、勝てば「やったー!」と叫ぶ。
それでも、さすがは剣豪役者の近衛。剣を抜けばド迫力だ。特に、恩人の仇を討つ場面が強烈。抵抗もせず必死に命乞いする相手を斬りまくり、血まみれにした挙句に溺死させるのだが、この時の鬼気迫る表情と鋭い切っ先からは、残酷なまでの殺気が目を閉じていても放たれていた。
そんな鉄心の前に立ちはだかるのが、「死神」を自称する殺し屋(東千代之介)。黒マントにスーツという洋装に身を包んだ凄腕で、鉄心とは対極的に、感情を表に出さないクールでニヒルな男だ。
鉄心の昔馴染みのお園(北条きく子)は、かつて自分を裏切った女性に瓜二つ。そのために死神はお園に執着する。
死神に惚れ込んでいる鉄心は戦いたくなかったが、やがて二人は対峙することに。そこには、全く思いもよらぬ苦い終局が待ち受けていた。
主人公も敵役も、そしてラストも。何もかもが意外性に満ちた一本である。