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ゴルフだってできるように

――このような事例があることを踏まえたうえで、肝胆膵がんの患者はどうすれば安全で、納得できる手術を受けられるでしょう。

 症例数の多い病院で手術を受けるのが安心ですが、肝がんや転移性肝がん、膵がんの手術は一定以上の症例数があるところなら、あまり成績は変わらないでしょう。しかし、肝門部胆管がんや進行胆のうがんのような超高難度症例は、施設によって成績に大きく差が出ます。

 こうした超高難度症例の患者さんは「手術できない」と言われることが多いのですが、残念ながら抗がん剤では治りません。ですから、本当に手術できないかどうか、超高難度症例の手術数が多い病院でセカンドオピニオンを聞くべきだと思います。実際、当院を受診される患者さんの半数以上は、他院で「手術できない」と言われた人たちです。そのうちのかなりの数の人たち(約3/4)は手術できます。

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 もちろん、手術してもバラ色ではなく、術後に再発するリスクはあります。しかし、手術を受けなければ、100%完治するチャンスは得られません。手術を受けるということは、完全に治る権利を得られるということなのです。

 それに肝胆膵がんは大変な手術ですが、手術を乗り越えさえすれば、あまり後遺症はありません。膵臓の手術では食欲低下や下痢が起こる可能性があり、全摘したら糖尿病になるのでインスリン注射が必要です。しかし、肝臓の場合は、大きく切ったとしても元の大きさに再生するので、手術の影響がほとんどないのです。

 驚かれるかもしれませんが、十何時間もかかる大手術を受けた人でも、翌日から歩ける人がたくさんいます。退院すればほとんど制限がなく、通常の生活ができます。ゴルフなどのスポーツだって、できるようになりますよ。

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――とくに名古屋大学は「肝門部胆管がん」など超高難度手術の成績がいいことで知られています。理由はどこにあるのでしょう。

 肝門部胆管がんの手術は、先代の二村先生(二村雄次名古屋大学名誉教授)が世界的なパイオニアで、その下で何十年も鍛えられました。だから、その経験の積み重ねと、消化器内科医、放射線科医、看護婦も含めたチームとしての総合力なのだと思います。

 私たちは、「メスの限界に挑戦する」ことをテーマに努力を続けてきました。ただ、超高難度手術に挑戦することと、安全に手術を行うことは相反する命題です。「もし死亡したら……」と思うと、手術前夜はなかなか眠れないこともあります。最後の決断は勘みたいなところもありますね。

 実際、ギリギリの選択を迫られたときには、外科医としては「やれません」と言ったほうが楽なんです。でも、「ひどいがんだった人が手術で5年、10年も生きた!」という症例を経験すると非常にうれしくて、「がんばろう!」という気持ちが湧いてきます。我々の施設は超高難度手術の数が圧倒的に多いのですが、成績は他の施設より優れています。通常は難しい症例を手がけるほど成績が悪くなります。ですから、これは自慢していいかなと思っています。