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トイレの順番でケンカになることもしばしば

 刑務所の部屋にはトイレ・シャワーはなく、1フロアに共同のトイレがあるだけだ。トイレは和式が5個、洋式が1個のみ。壁は一切ない。和式と洋式トイレの前には小便用の便器が並んでおり、小便をしている者の尻を見ながら用を足すことになる。1フロアに100人程度が収容されていたので、6個のトイレには毎朝列ができていた。

 私は洋式が好きなので、いつも洋式を使っていた。洋式を使う人は5~6人だったので、顔見知り同士は順番を決めて使っていた。ただ、乱入してくる者もおり、ケンカになることもしばしばあった。

 トイレには瓶が20本程度置いてあり、皆3~4本に水を入れて便器の前に置いていた。トイレの水が出ないことがたまにあるため、瓶に水を入れて準備しておくのだ。私は瓶に水を入れるのが面倒だったので、自分の洗面器を持っていった。黒人の多くはトイレットペーパーを使わず、水を使って手で洗ったり、中には石けんやシャンプーで洗っている人もいた。黒人たちからよく「洗面器を貸してくれ」と言われた。使用後はちゃんと部屋まで返しに来た。これも人間関係を円滑にするにはやむを得ないことだった。

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植林起工式で代表として挨拶する著者の鈴木英司氏。この時、国家安全部の人間が身分を隠し、ボランティアとして筆者に随行していた(中国・錦州で2010年6月、著者提供)

過酷な軍隊式の新人教育

 刑務所でまず始まったのは「新人教育」だった。これは収容されてから3カ月続いた。

「♪没有共産党就没有新中国(メイヨウゴンチャンダンジウメイヨウシンチョングオ)(共産党がなければ新しい中国はない)」

「♪共産党辛労為民族(ゴンチャンダンシンラオウェイミンズー)(共産党は民族のため懸命に働く)」

 共産党の革命歌を嫌というほど歌わされる。中国語が読めない人にはアルファベットで記した歌詞が配られた。一種の洗脳教育なのだろう。行進や布団のたたみ方の練習もあった。

 深夜、2時間にわたり廊下を歩き続ける訓練が1週間に1度あった。これは体に相当こたえた。

 また、食事も最悪だった。ゆでたり炒めたりした野菜中心で、肉が出たのは数回だった。新人教育が軍隊式であることは拘置所にいる時から聞いていたので、一応の覚悟はしていたが、これほどとは思わなかった。入監の時に73キロだった体重は、68キロまで落ちた。

 新人教育が終わった後も「洗脳」は続いた。毎日、中国国営中央テレビが制作する英語ニュースを見せられる。そして、毎週土曜日の午前9時になると中国国歌を歌わされ、その後はおもに共産党史のビデオを見せられた。