大使館から待遇改善要請をしてもらうように依頼
看守らと中国語でやり取りできる台湾人は、食事担当でポイントを稼いでいた。夜の見回り「デューティー・ピープル」は、体力がある若いナイジェリア人たちがポイント欲しさに買って出た。夜間、トイレに入る場合は3人以上で行くというルールがある。私もナイジェリア人の2人に伴われながら用を足した。
受刑者の待遇改善に取り組んだことは思い出深い。食事で肉が出るのは1カ月に2回ぐらいしかない。外国人収容者たちはもちろんのこと、肉好きの私としてはもっと欲しかったし、医療体制も十分とは言えなかった。ポイント制も問題だった。600ポイント貯まると減刑の対象になっていた。刑務所内で問題を起こさなければ、毎月20ポイントずつ貯まっていく。だが、例えばケンカをして相手を殴ると60ポイント引かれてしまう。「デューティー・ピープル」を1カ月続けると20ポイントの倍の40ポイントがもらえる。さらに、月に1回5分と決められた家族への電話が、10分に延長できる「特典」もあった。
私は北京市監獄管理局の局長に待遇改善を求める手紙を出した。さらに、日本、米国、パキスタンの大使館からも、中国側に対して待遇改善要請をしてもらうように各国の受刑者が面会の際に依頼した。これらの努力が実を結び、肉は週に2回出るようになった。健康に配慮し60歳以上の受刑者には週に1回、牛乳がまとめて7パック支給されるようにもなった。ポイント制は減刑を計算する上では残ったが、買い物の際のポイント制は廃止。ポイントがなくても現金さえあれば、誰でも買い物ができるようになった。
なぜ自分が狙われたのか
待遇は多少改善されたが、習近平政権になって以降、減刑が認められたケースはほとんどない。胡錦濤時代とはまったく違うようだ。仮釈放も一切ない。中国の刑事訴訟法では75歳に達すると釈放してもよいという規定があるにもかかわらず、それもなし。こんなところにも、習政権の人権軽視の強硬姿勢が表れていると言えるだろう。中国事情にあまり関心のない外国人でさえ、皆「習近平は悪い奴だ」といつも言っていた。
2022年1月、刑務所での2度目の正月を迎えた。刑期満了まで9カ月あまりとなった。それにしてもなぜ、自分が狙われたのだろう。中国大使館幹部や公安調査庁との付き合いは確かにあった。
ただ、日本には同様の人脈を持つ人も少なくない。そういえば取り調べでは、特に数人の中国大使館幹部について詳しく聴かれた。彼らが捜査対象で、情報をとるために私を逮捕したのだろうか。いくら考えても、答えは見つからなかった。
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