96年の羽生七冠と現在の藤井竜王・名人が対戦したら…
――『超進化論 藤井聡太』の前書きでは、藤井竜王・名人が史上最強だと記されています。では最新の定跡が関係ない戦い、いわば地力が問われるような未知の局面で1996年の羽生七冠と現在の藤井竜王・名人が対戦したらどうですか?(※取材後の10月20日、記者会見で羽生九段は「羽生七冠と藤井八冠が対戦したら」の問いに即答で「全然かなわない。全くかなわないです」と笑った)
森内 やっぱり同じ時代でないと比較することは難しいんですよね。いくら地力が問われる局面でも、藤井さんは30年分の進歩した知識を身に着けているわけですから。同様に、いかに藤井さんであっても30年後に全冠制覇するような人が出てきたら戦うのは大変でしょう。
王座戦3局までの藤井vs永瀬戦
――王座戦第1局~第3局を振り返ってください。
森内 永瀬さんの戦いぶりは興味深いです。後手番の第1局は角換わり早繰り銀の珍しい4一玉型、第3局は後手雁木で前例の少ない将棋を指されました。藤井さん相手に後手番で普通に角換わり腰掛け銀をやったら大変なので、微妙にずらしているわけです。それがいちばん労力がかかる大変な勉強だと思うので、最高峰の研究だと思います。
永瀬さんは研究がすさまじく、シリーズ中に指したA級順位戦の斎藤(慎太郎八段)戦、王位戦の伊藤匠(七段)戦で、中盤のかなり先まで時間を使わずに飛ばしていました。タイトル戦の最中でも多くの時間を研究に費やして、実戦にぶつけているわけです。今年、私がABEMAトーナメント2023で戦ったときも、難しい局面でも瞬時に判断していました。対局で相手から毎日鍛え上げているような強さを感じることは、あまりないことです。
――永瀬王座は最新形をリードするひとりです。藤井竜王・名人が角換わり腰掛け銀でくるとわかっていても、最前線の相腰掛け銀で迎え撃つわけにはいかないんですね。
森内 もちろん、後手で角換わり腰掛け銀を指す選択もあり、過去のお二人の対戦では何度も指されています。しかしメジャーな定跡は相手もよく調べていますし、なかなか互角以上にするのが難しいのが現状です。それなら、お互いに知識の少ないフィールドで勝負しようというのが、今回の永瀬王座の作戦だったのかと思います。
――藤井竜王・名人の戦いぶりはどうでしょうか。
森内 いつも通り、自分の興味や最善手を追及しています。第2局では角換わりで珍しく右玉に組み、いままでとは違った工夫を取り入れてきているように思いました。角換わり右玉は打開が難しく、指しこなすのが大変な戦型ですが、どんな戦型でも勝負できるという強い意思を感じます。