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将棋はパーセンテージを争うものではない

――タイで迎えた第3局は、評価値だけ見ていると永瀬王座のたった1手のミスでひっくり返った大逆転です。

森内 実際は難しい終盤で、後手がほぼ勝ちに見えてしまうのは評価値の弊害といえます。永瀬さんは正しく指せたら勝てるけど、間違えたら負けてしまう終盤でした。局面の難易度が高く、持ち時間が切迫していれば何が起こるか分かりません。

 AIの形勢判断はパーセンテージで出ます(多くの動画中継では、評価値をもとに計算された勝率が表示される)。それをもとに将棋を楽しむのは素晴らしいことです。しかし、あくまで形勢を見やすくしたものであって、将棋はパーセンテージを争うものではありません。

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 これが例えばバックギャモンだと、サイコロのどの目が出るかは均等なので、AIが計算した局面の勝率は実際に正しく、参考になります。将棋の場合、真理を突きつめていくと、ある局面の勝率は100%か0%か50%のいずれかに分類されます。また、実際の対局においては、対局者が自分の意思で指し手を決めるので、対局者の情報がないAIには勝率を判断することが難しいのです。だから、どうしても評価値のパーセンテージと対局者の感覚にはギャップが生じてしまいます。

©文藝春秋

人と指さなくても強くなれる時代…世界中に可能性がある

――単純な金の両取りが永瀬王座のエアポケットに入ったようですが、そうなってしまう状況になるほど追い込まれていたのでしょうか。

森内 いくら優勢といってもなかなか勝ち切るのは大変です。自分がほとんど指さない戦型なので経験値が低い、自玉が薄くて大変、そういったなかで優位をキープするために時間と力を使います。そして疲れ切って時間がなくなったころに相手が最後に必ず攻めてくるので、間違えることもありえます。

 藤井さん第3局で勝ったのは大きかったです。負けていたらあとがなくなって、厳しかったでしょう。

――仮に藤井八冠誕生なら、誰がその牙城を崩すと思いますか。

森内 わからないですけど、時代の流れからすると、年下の人が出てきて勝つのが一般的です。若手棋士で勝率が高い人は研鑽を積んでいますし。ただ、いまは環境が整っていて、どこからどんな人が出てくるかわからないので、想像がつきません。

 例えば、囲碁はもともと日本がいちばん強かったそうですが、中国・韓国が一気に強くなりました。集団で強くなる力はすさまじいものがありますし、将棋もそういう仕組みがあったらわかりません。いま人と指さなくても強くなれるので、世界中で可能性があるでしょう。囲碁界は国際的な競争が激しく、将棋界よりも先をいっています。トッププロの低年齢化、活躍できる期間は短くなっているので、将棋も徐々にそうなると思います。