八冠を守り続けるのは大変、何が起きても驚かない
――1996年の羽生七冠のときはどういう評判でしたか。
森内 羽生さんの勝率が抜群に高くて、全冠保持がしばらく続くというのが一般的な見方だったと思います。それが棋聖戦で失冠されて七冠独占は数か月で終わり、そのあとは七冠になっていません。本当に先のことはわからないですよ。
――羽生九段は2004年、34歳で一冠に後退しています(森内に竜王・名人・王将を奪われた)。それも七冠のときには想像できないことでしたか。
森内 ええ。藤井さんも全冠独占が続くと思われているかもしれません。もちろんいまの藤井さんのほうが羽生七冠よりも勝率が高くて、安定しています。タイトル戦で敗退したことがないどころか、連敗したこともない。でも八冠を守り続けるのは大変だと思うので、何が起きても驚かないです。藤井さんの初戴冠から八冠まではわずか3年。それと同じようにガラッと数年で変わってもおかしくありません。
もちろん、藤井さんがまだまだ強くなる余地はあるでしょう。いまのソフトの強さはすさまじいですから、次々に新しい考え方を学ぶことができます。そうやって自分の考え方をアップデートしていけば、向上心に終わりはありません。
「藤井さんはすでにオールラウンダー」
――藤井竜王・名人は居飛車党です。大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人、「永世七冠」の羽生九段は居飛車と振り飛車を指せるオールラウンダーで、自分の年齢や相手に合わせてうまく使い分けています。藤井竜王・名人もそうなる可能性はありますか。
森内 すでにオールラウンダーみたいなものですよね。居飛車の角換わり・相掛かり・矢倉をすべて指せるし、右玉のような変化球もうまい。新しい感覚をいち早く吸収しているので、基本的に指そうと思えば何でも指せるでしょう。振り飛車をできれば武器になるかもしれないけど、別にやらなくても困らないかもしれない……。
――いま初戴冠を果たすには、藤井竜王・名人を倒さないといけません。「打倒・藤井聡太」を目指している若手に向けて、アドバイスはありますか。
森内 いまは層が厚くて競争が厳しいので、挑戦者になるのも大変です。でも、そういう舞台に出ると見えてくるものが変わるでしょうから、経験を積むことが大事だと思います。