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山肌の削れた“変な山”の正体
ふつう、山というのは下から見上げるとこんもりしていて木々に覆われているものだ。ところが、西武秩父駅前から見るその山は、てっぺんあたりの山肌が削り取られたような見た目をしている。そのあたりは木々も薄くはげていて、白い岩が丸出しになっている。いったい、これ、何なのだろうか。
この山の名前は、武甲山という。ヤマトタケルが東征の際に武具甲冑を奉納して戦勝を祈願したことから武甲山と名付けられた、という言い伝えがある。真偽は別にして、そういわれるくらいに尊い山として、昔から信仰の対象にもなっていたという。山頂には御嶽神社が鎮座する。かんたんにいえば、武甲山は秩父のシンボルなのだ。
ただ、武甲山は石灰岩がとてもたくさん含まれているという特徴もあった。そこで、石灰石を原料とするセメントの需要が増えた大正時代頃から本格的な採掘がはじまった。神の宿る山なのに掘っちゃっていいの?という気がしなくもないが、それはそれ。セメントの大消費地である東京に近いというメリットも大きなものだったのだろう。
石灰石の採掘はいまも続けられており、山肌が削り取られたのはこのためだ。武甲山の変わった山容を見て、「変な山」などとは東京の人は口が裂けても言ってはいけない。いつもセメントをありがとうございます、と手を合わせねばならないのである。