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「藤井八冠に挑む若手の壁になる」「過去20人しかいない天鳳位」将棋と麻雀の“二刀流”プロが目指している“路線”とは

「藤井八冠に挑む若手の壁になる」「過去20人しかいない天鳳位」将棋と麻雀の“二刀流”プロが目指している“路線”とは

井出隼平五段インタビュー #2

2023/11/24
note

ミスが大成功につながる麻雀の理不尽さ

――ゲームとしての将棋と麻雀の違いを挙げると、まず完全情報ゲームか否かという違いがありますが、それぞれの違いや楽しさはどのようにお考えですか。

井出 違いという部分は、まず将棋は完全情報ゲームなので負けたら基本自分のせいというのがありますよね。ところが麻雀は最善を尽くしても負けるというか、最善を尽くしたがゆえに裏目に出るということが当然にあります。それは将棋にはないことですが、自分のミスが結果的に大成功につながる理不尽さが麻雀の面白さでしょう。

 ただ、将棋でもたまに悪手を指したがゆえに勝つということがあります。例えば、こちらの自玉に詰みがあるのに気づかず相手玉に詰めろを掛けたら、相手が勘違いして受けに回ったから勝ったということは将棋によくあることです。そういう意味では将棋にも運の要素がないとは言えませんね。

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目指す路線は「若手の壁になること」

――将棋と麻雀、それぞれのプロとしてのこだわりやアピールをお願いします。

井出 まず将棋の方がわかりやすいですね。現在の将棋界には藤井聡太八冠がいますが、誤解を恐れずに言うと、今の私はそこを目指して将棋を指しているわけではありません。麻雀プロもやりながらそこに行くのは常識的に考えても無理だろうと思っています。

 私が目指している路線は、藤井八冠に挑もうとしている若手の壁になることですね。もちろん打倒藤井を目指すメンバーと競った将棋にするのは大変です。こちらも勉強しないと若手の研究に蹂躙されるだけで、指していて楽しくありません。振り飛車をやめるつもりはないので、振り飛車党として、藤井八冠へ挑もうとする人と競った将棋を指すために勉強しています。

 

――麻雀プロとしてはいかがですか。

井出 プロが1000人以上いる世界で、普通にやると埋もれてしまうというか、埋もれているのが現状ですね。そこから脱出するための手段が天鳳位を目指すことです。今までも目指していましたが、プロになったので、よりその意識が強くなりました。これまで天鳳位になった方は20人ほどしかいません。今の自分がまったく届かないわけではないと思いますが、現状では厳しいですね。それでも天鳳位まで行けば何か変わるんじゃないかなという思いがあります。

――これまでの天鳳位の方と、現在の井出さんを比較するといかがですか。

井出 差がわずかだったらもっと善戦できているので、はっきりとした差があると言えます。基礎的な効率を考える部分にも差がありますが、捨て牌などの状況に応じて臨機応変にそれぞれの判断が求められる部分で、特に上位層との差を感じています。