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徹子の指名に見事応えたあいみょん、ゆっくり流れるスタッフロール

 あいみょんが歌うエンディングテーマ、『あのね』は、6分46秒におよぶ長いバラードだ。「言いたいことをつめこんだら、自分の曲の中で最も長くなってしまった」とあいみょんは語るが、同時にそれはこの映画のエンディングで流れることを想定して作られた、見事な「映画音楽」になっている。映画のサウンドの一部、汽車の機械音のようなイントロから始まり、最後に監督の名が表示される余韻にはヴォーカルが終わり静かなアウトロが流れるラストまで、あいみょんという若い才能は自分の創造性と映画音楽の伴奏性を両立させ、この主題歌を設計したように思える。

 エンドロールが流れる間、観客たちはこのアニメーション作品の12万枚という作画を支えた、金子総作画監督によれば100人を超えるアニメーターたちの名前をひとりひとり、銀幕を流れていくのをゆっくりと読むことができる。

『となりのトトロ』『魔女の宅急便』などジブリ作品を支えてきた日本を代表する美術監督、男鹿和雄が参加している。スタジオジブリで高畑・宮崎のもとで経験を積んだ舘野仁美が、次世代のアニメーターの育成をめざしたちあげた「ササユリ」から、何人もの若手アニメーターたちが名を連ねている。

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 声優たちには、ヴィム・ヴェンダースの作品で主演しカンヌ男優賞を受けた役所広司、そして小栗旬や杏といった、通常ならとても一作品に集められないようなトップ俳優たちが名を連ねる。この映画を支えた彼ら一人一人の名がスクリーンを流れる時間を少しでもゆっくりと長く見せるために、あいみょんという当代きっての若い才能は6分46秒、という長くゆるやかなバラードを作り上げたのかもしれない。

 そして彼女に名指しで主題歌を依頼したと言われる黒柳徹子は、これほどの音楽的才能を持ちながら、2021年の『徹子の部屋』で実は楽譜が読めないと明かしたあいみょんに、自分と同じ「トットちゃん的なもの」を感じていたのかもしれない、と主題歌を聴きながら思った。

戦後史の重要人物、黒柳徹子90歳

「戦争があったでしょ。今もあるけど。そういうことがあってね、作っておこうかと思って」

 12月8日の『徹子の部屋』で、あいみょんを前にして黒柳徹子は、42年間の封印を解いてアニメ化に許可を出した理由をそう語っている。90歳になっても変わらぬその声と声の間には、以前にはなかった、息継ぎのような呼吸音が入るようになった。彼女はもう90歳なのだ。

『窓ぎわのトットちゃん』がもたらした収益の多くを、彼女は社会福祉法人トット基金、日本ろう者劇団など多くの福祉活動に割き、また時間と体力の多くを国連児童基金(UNICEF/ユニセフ)親善大使として世界を回る活動に割いてきた。彼女の年齢と『徹子の部屋』というほぼ毎日放送される番組と並行することを考えれば信じがたいような長年の活動に対して、日本の芸能界が十分に評価を与えてきたとはいいがたい。トットちゃんという少女を再解釈したこの映画の成功が、黒柳徹子という日本の戦後史にとって重要な人物の再評価につながることを願いたい。