解散説にフレディ自ら触れた

 解散説は霧消し、アクチュアルなバンドとして再びエンジンがかかった。「第4ステージ」の幕開けだった。彼らにもその感触があったのだろう。ライヴ・エイドの勢いを保ちつつ制作した86年の『カインド・オブ・マジック』とその欧州ツアーによって本国イギリスでクイーンの復活が高らかに宣言されることになった。ウェンブリーの模様は2枚組のDVD「ライヴ・アット・ウェンブリー・スタジアム」で確認できる。

 DVDでフレディが「最近、クイーンが解散するって噂があるって」と話し出す。見ている方は、解散宣言でもするのか、と一瞬どきりとする。

 少し気をもたせるように間をおいて、フレディは「そんなことはない。僕らは一生一緒さ」。沸く観衆。その語りを受け、ブライアンが大写しになる。その顔は、“オーライ、そうだね”と応えているかのようでもある。

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「ライヴ・アット・ウェンブリー・スタジアム」(25周年記念版)のDVD

 気まぐれなフレディだけに、この時、瞬間的に自分でもそう確信して、自分に言い聞かせ、観客に証人になってもらうために、語り出したのかもしれない。「瀕死の白鳥」ならぬ「瀕死の女王」が再び世界に君臨し始めたのである。

 しかし、フレディはこの時、HIVに感染し、潜伏期間にあったのではないか。何らかの予兆的な自覚症状も少しずつ出ていたのだろうか。感染の有無を本人も知ろうとせず、メンバーにも告白していなかったが、ブライアンらは、フレディの変化を感じ取っていたかもしれない。

 86年のアルバム『カインド・オブ・マジック』を制作していた85年ごろから、「リヴ・フォーエヴァー」など意味深長な曲が出始める。ブライアンは曲を通じて暗にフレディにメッセージを送り、癒そうとしていたのだろうか。それを歌いながら、フレディは心の奥底に恐怖に震え上がる己を見出していたはずだ。