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未解決事件を追う

「まるで幽霊を見ているようでした」30年以上身元不明だった16歳少女の正体とは…素性をつきとめた「市民探偵」会計士の“執念”

「まるで幽霊を見ているようでした」30年以上身元不明だった16歳少女の正体とは…素性をつきとめた「市民探偵」会計士の“執念”

『未解決殺人クラブ  市民探偵たちの執念と正義の実録集』より #2

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頭蓋骨の写真から作業をすることも

 故人に合う皮膚のトーンを調整したら、ライトニングとシェイディングの技術を使って被害者の顔の輪郭を作りだしていく。この段階で詳細に気を配るのはもっとも重要だ。 

「眉の位置を間違えたら、似た顔を作ることはできません」と、カールは私に言う。しかし、描くケースにおいて、どれだけ似せることが出来るかは、情報量に左右されてしまうという。「ドウの身体的特徴を知っていればそれだけ、僕にとっては有利ですよ」と、カールは説明する。解剖写真のクオリティは大きな要素だとも。寝ているように見える被害者もいれば、酷く腐敗した被害者もいて、その場合、作業は困難なものになる。

「頭蓋骨の写真から作業するときは、頰骨の形と幅を検証します。眉毛の形や両目とのスペースは、似顔絵を似せようとする場合は重要な要素になりますね。唇と顎もそうです。ライトとシャドウを使えば、頭蓋骨の骨格にあった輪郭を作ることができます。ケースによっては、珍しい歯並びの頭蓋骨や、かぶせた歯がある頭蓋骨などがありますが、こういった特徴は検死官による写真で確認できます」

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「この確認の仕方を知らない人にとって、頭蓋骨を見ることはほとんど意味がないことだと思います。でも、僕にとっては有益なことなんです。『これは私が知っている誰かに似てる』という、誰かの記憶を呼び起こすかもしれませんから」

現在までに300枚を超える似顔絵を描いているが…

 カールは公共のデータベース「ネイムアス(NamUs)」から復元する写真を入手しているが、最近では検死官が直接彼に画像を提供し、協力を依頼することが多いという。 

 骨が残っているだけのケースが最も難しいとカールは言う。「先日、頭蓋骨だけをベースとした描写を完成させたところですよ。男性の髪がどうだったかなんて情報がまったくなくて。中年だったという情報が唯一ですよ。結局、ウォッチ・キャップ[つばなしニット帽]をかぶせました。それが解決法です。冬のミネソタで発見されたということだったので、寒い地域だから、ニット帽をかぶっていただろうって思ったんですよ」

 現在までに、カールは300枚を超える似顔絵を描いているが、カリ・ジェーン・ドウの似顔絵が、彼自身の法医学アーティストとしての評判を上げた1枚だと語る。彼が事件を取り上げたのは2010年で、法医学技術の進歩に伴い、警察がカリ・ジェーン・ドウの遺体を掘り起こして、骨と髪の毛からDNAを採取して5年後のことだった。