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「まるで幽霊を見ているようでした」30年以上身元不明だった16歳少女の正体とは…素性をつきとめた「市民探偵」会計士の“執念”

「まるで幽霊を見ているようでした」30年以上身元不明だった16歳少女の正体とは…素性をつきとめた「市民探偵」会計士の“執念”

『未解決殺人クラブ  市民探偵たちの執念と正義の実録集』より #2

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カリ・ドウの衣類から花粉を採取すると…

 2006年、犯罪科学を専門とする花粉学者がこの若い女性の衣類を調査した。花粉学(胞子と花粉粒を調べる学問)を用い、カリ・ドウの衣類から花粉を採取し、専門家がその粒子を、フロリダ、アリゾナ、南カリフォルニアに生えている樹木とマッチさせた。それは、彼女がニューヨークにやってくる前に、それらの地域を訪問した可能性を示唆していた。

 この法医学的証拠とカリ・ドウの検死写真を入手し、カールはアートワークを使って彼女のイメージを復元することに執念を燃やした。トウモロコシ畑で発見された少女の身元を必ず割り出すと決めたのだ。

 カリ・ドウの検死写真は悲惨だ。とある1枚では、彼女は頭を右に向け、幼い顔は白いろうそくのように見える。ブロンド混じりの茶色い髪は、固まりになって首に絡まっている。ティンカー・ベルのようなかわいい鼻、丸い頰、唇はすこし開いている。写真の中で、カリ・ドウの両目は閉じられている。

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写真はイメージ ©iStock.com

カールの描いた完成形の似顔絵

 最初のバージョンのカリ・ドウの似顔絵を描いた当時、カールはデジタル・ソフトウェアを使いこなせていない状態だったそうだ。「あの当時はグラフィックの動きがあまり理解できていなくて」と彼は認める。「だから、死後の写真をほぼ変更しなかったんです。彼女の両目は開きました。茶色い目だとはわかっていました。少し髪をストレートにして、それから発見されていたときに着用していた衣類に似た衣類を着せました」

「肌は死体の青白さが残っていました。ソフトの使い方のこつがわかりはじめたことで、カリ・ドウの復顔もどんどん修正していきました。そして、スーパーインポーズ[イメージを重ね合わせる]技術を見いだしたんです」

 カリ・ドウの姿はカールの心のなかで消えることはなかった。生前の彼女が話し、笑顔を見せ、笑い、そして泣いたときの唇や頰の形を思い浮かべることができた。「彼女の顔のことだったらなんでもわかるようになりましたから、写真を見たときにはすぐに彼女だとわかりました」と、彼は少し頭を揺らしながら言う。「同様に、誰かが、例えば彼女の親戚や友人が、僕の絵を見て彼女に気づいてくれるといいなと考えていました」

 カールの描いた完成形の似顔絵は、美しい10代のハート型の顔に、スモーキークオーツ[煙水晶]色の目、ちいさくてかわいい鼻、そして桃色の唇、前歯を見せながら微かに微笑む女性を表現していた。顎のあたりまである髪を真ん中で分け、妖精のようなスタイルにしていた。ターコイズとシルバーのビーズのネックレスを喉のあたりにつけていた。