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未解決事件を追う

「まるで幽霊を見ているようでした」30年以上身元不明だった16歳少女の正体とは…素性をつきとめた「市民探偵」会計士の“執念”

「まるで幽霊を見ているようでした」30年以上身元不明だった16歳少女の正体とは…素性をつきとめた「市民探偵」会計士の“執念”

『未解決殺人クラブ  市民探偵たちの執念と正義の実録集』より #2

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不屈の市民探偵は高校の卒業アルバムを精査

 カールはそのデータをもとに描いた似顔絵をウェブスルース・ドットコムとネイムアスの両方にアップロードしたが、死後写真から少女の身元を割り出すという彼の活動はそこで終わることはなかった。花粉が導き出した証拠に興味を抱いた不屈の市民探偵は、1970年代にフロリダ、アリゾナ、そして南カリフォルニアで発行された高校の卒業アルバムを精査した。

 母の面倒を見ながら、カールは、刊行物のデジタルコピーを所有しているClassmates.com  [同級生を探すサイト]を、何時間もかけて探した。カールは何百枚もの女子生徒の白黒写真を、幸せと希望に満ち、大きな笑顔をたたえた顔を、拡大して見続けた。 

 眉、頰骨、目、唇、そして髪を注意深く観察した。今となっては見慣れたハート型の顔にある、ティンカー・ベルのようなかわいい鼻。カールの脳内に、アニメーションの広告のように映し出され、絶えずキラキラと輝いている、あのかわいらしい鼻を探していたのだ。 

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カリ・ドウは家出少女だったのではないか?

 多くの笑顔のなかに、カリ・ドウを見つけたと思ったときもあった。彼が描いた肖像画にそっくりな顔が現れたのだ。彼はオハイオ在住のその女性を捜した。「でも」と言いつつ、カールの頰はそれを思い出しながら上がり、笑顔を見せていた。「その女性は生きていて、書店で働いていることがわかりました」。カールはカリ・ドウに似た女性をミネソタとサンディエゴで見つけたのだが……カールが電話をかけると、そのどちらの女性も彼の電話に応対したのだった。

 カールは仲間のウェブスルーサーたちと、カリ・ドウの専用スレッドで持論のシェアをした。グループは調査を通して、カリ・ドウの可能性のある何人かの10代の行方不明女性たちを、リストから除外していた。しかし、候補女性の名前がリストから外されれば外されるほど、別の説が信憑性を持つようになってきた。カリ・ドウは家出少女だったのではないかということだ。「僕はそれを懸念していました」とカールは説明する。

「70年代の家出少女だったとすると、行方不明者ファイルが18歳になった時点で廃棄されてしまいます。それが理由で、もしカリ・ドウが家族によって行方不明者と警察に届け出されていたとしても、家出少女だと認識されれば、その記録は残らないのです」。そもそも、カリ・ドウの親類が今も生きているかどうかもわからない。答えのない疑問が山ほどあったのだ。